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「無能と批判された指揮官が“新たな戦略”を」「戦術面の積み上げ不足が…」W杯ドイツ、スペイン撃破の舞台裏〈日本代表取材ライター対談〉
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byJFA/AFLO
posted2023/01/02 17:01
スペイン戦後、喜びをあらわにする日本代表イレブン
日本代表の目指したものが見えたスペイン戦
――スペイン戦(○2-1)についてはいかがでしょうか。飯尾さんはコラムで冨安健洋の右ウイングバック投入について触れていました。
飯尾 スペインが左サイドにジョルディ・アルバとアンス・ファティを入れてきたのを見た途端、冨安を対面のウイングバックに入れたのは凄く鮮やかでした。相手の動きを見て、素早く後出しじゃんけんをした采配は見事だったと思います。
木崎 個人的にスペイン戦で注目したのは、前半途中に守田が谷口彰悟に指示したというエピソードです。
飯尾 前半30分頃、谷口にインサイドハーフの位置まで出ていってほしいと言ったシーンですよね?
木崎 はい。キックオフ直後は1トップの前田大然が、スペインのアンカーであるブスケッツを背中で消そうとしていたけど消しきれない。だから日本のダブルボランチが前に出てケアしなければいけなくなった。
飯尾 そうすると中盤のペドリやガビが空くから、最終ラインの谷口や板倉滉が中盤まで出て潰してほしい、と。
木崎 前から捕まえにいくという守備は、世界的に見るとトゥヘル時代のチェルシーなどがやっていた。3バックのセンターバックが中盤まで迎撃にいくと試合中に修正できたのは、守田と谷口、板倉と田中碧が同じ川崎フロンターレ出身だからというのもあるかなと。
飯尾 この場面では森保監督からの指示は出てなくて、ピッチ内で前半のうちに選手たちがベンチの指示を待つのではなく、自分たちで主体的に判断して対応した。4年前に僕が思い描いた日本代表は、まさにこうしたチームでした。ただ、木崎さんに言われて気づいたんですが、フロンターレ出身勢だったからコミュニケーションがスムーズだったというのも大きいのかもしれない(笑)。
戦術面での積み上げ不足と、通用したスピード
木崎 その一方で、戦術面での積み上げ不足はスペイン戦でも出ていました。序盤にモラタのヘディングシュートで先制されていますが、これはサイドからクロスを上げられて、5バック気味になった伊東と板倉の間でやられている。次のクロアチア戦でも、ペリシッチの同点ゴールが同じような形でした。本来右サイドを務めると見られた酒井宏樹がケガをしていたという側面はありますが、3バックでスタートする試合自体が久しぶりで、急造布陣の弱点が出たなと。
飯尾 3バックでキックオフを迎えたのは2020年11月の親善試合(パナマ戦)以来でした。
木崎 逆にスペイン相手に通用したのはハイプレスでした。本田圭佑の元個人分析官でベルギー2部・デインズの元監督の白石尚久さんという方がいるんですが、ルイス・エンリケと交流があるんですね。試合前日、白石さんのもとにスペインの主任分析官であるウンスーエという人物から電話がかかってきて、彼は「日本は途中からハイプレスがある」と話したそうです。
もちろん白石さんが伝えるまでもなく、スペイン陣営もハイプレスについて把握していたはずですが。それにもかかわらず堂安律の同点ゴールの直前、GKのウナイ・シモンと左SBのバルデに対する前田と伊東のプレスがハマった。それは彼らにとって想定を超えるスピードだったという証拠です。
スペインがナメていたのもあるかもしれませんが、ロンドン五輪で永井謙佑のスピードが生きたのと似た現象が起きた。ただスペイン戦での失点がそうですが、W杯という短期決戦では奇策が有効であると同時に、決勝トーナメント1回戦になると、もう4試合目なので研究されて穴があぶり出されてくる。そういった限界も見えたという意味で、奇策には功罪両方があったかなと。
――その決勝トーナメント1回戦の相手はクロアチアでした。
飯尾 この試合ではクロアチアとの差を大きく感じました。
木崎 個人的に、特に残念だったのは後半でした。
◇ ◇ ◇
第3回では「クロアチア戦の敗因」、「理想の代表チーム作りとは何か」、「カタールW杯後の日本代表の体制」などについて語り合っていく。
<#3につづく>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。