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《ヤンマーハナサカ レディースゴルフトーナメント開幕!》人の、未来の、可能性を後押し…ここから大きな舞台で未来に花を咲かせる
posted2025/03/18 11:30

左から永田加奈恵、永嶋花音、中村心
text by

雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Getty Images
昨年この大会で大きな花を咲かせた永嶋花音
「あ、これは私が勝った方がいいんじゃないかな」
緊迫の優勝争いの中で、永嶋花音はふとそう思った。
2024年「ヤンマーハナサカ レディースゴルフトーナメント」最終日。リーダーボードを見て、大会名の「HANASAKA(ハナサカ)」の文字が目に入ったからだ。それは「花」の名がつく自分と、優勝とを繋ぐ赤い糸に見えた。
些細なひらめきに過ぎなかったとしても、永嶋が勝利に対してそんな風に自信を持つことができたのは、プロ3年目にして初めてのことだった。
「私は昔からコツコツタイプで、ベストスコアも不思議と1打ずつ更新してきました。ゴルフだけじゃなく、学校とかでも1年目はなんとなく馴染めず、3年目に溶け込める。何事も一気によくなることがなかったんです」
プロでの歩みもコツコツと、いや、実際にはもっと厳しい道のりだった。ルーキーイヤーの2022年は、出場したレギュラーツアー23戦中16試合で予選落ち。最高位は43位と、プロの強烈な洗礼を浴びた。翌年はレギュラーツアーに出るチャンスがあっても「ゴルフ場に着いたのに車から出たくなかった」と自信喪失状態。そんな有様では、結果も当然ボロボロだった。
そんな永嶋の支えになったのが、ステップ・アップ・ツアーでの戦いだった。
レギュラーツアーの出場資格を持たない選手や新人に経験を積ませることを目的とした同ツアーは、年間20試合以上が行なわれている。下部ツアーのため待遇面では劣り、キャディは各組1人しかつかず、練習場では一般営業と変わらぬレンジボールで調整する。それでも、這い上がろうとする女子プロたちには貴重な研鑽の場だ。
「プロになってすぐに活躍する子もいるけど、私はここからやらなきゃいけないんだと。一度、低いところから目標を設定し直したら吹っ切れました」
何度か優勝争いも経験した上で辿り着いたのが、「ヤンマーハナサカレディース」でのプロ初優勝だった。その後、レギュラーツアー出場権をかけたQTでも上位に入り、2025年は再びレギュラーツアーで開幕を迎えた。
「自分に自信を持てないタイプだった私が、優勝したことで変わったと思います。最初の2年は特に辛かったけど、今となってはすごくいい経験でした。逆にトントン拍子にいかなくてよかった」
偉大な先輩の背中を追う永田加奈恵
永嶋と同じように今季レギュラーツアーを主戦場とし、プロとしての第一歩を踏み出すのが、近畿大学出身の永田加奈恵だ。自らを「慎重派」だと言う彼女もまた、一直線ではないゴルフ人生を歩んできた。
賞金女王経験者の山下美夢有とは同い年、同じ関西出身で小学生の頃から競い合ってきた間柄。滝川二高では1年先輩にのちのメジャー覇者の古江彩佳がいた。
彼女たちと同じように、自分も高校を卒業してプロへ。そう考えて、高3で一度はプロテストにエントリーした。しかし、この年、永田は絶不調に陥っていた。「こんな状態では無理だ」と直前で受験をキャンセルすると、近畿大学短期大学部への進学を決める。
大学でチームメイトの練習ぶりを見ていると、高校時代の自分はスランプだったのではなく、単純にやるべきことをやりきれていなかったと気づいた。永田はそれから必死にクラブを振り、不調を脱したが、2年が経って卒業のタイミングが訪れた頃、再び立ち止まった。すでにプロで活躍し始めていた同世代に刺激を受けつつも、「私にはまだ実力が足りない」と考え、今度は4年制に編入。さらにアマチュアとしてのプレーを続けた。
編入生は取得すべき単位も多く、学業でも手を抜けなかった。朝から昼過ぎまで部活に費やし、午後3時から1限が始まって夜の9時半まで授業を受けて一日が終わる。
「家に帰って寝るだけみたいなハードスケジュールでしたが、計画性を持って練習を組み立てられたのはいい経験になりました」
それほど忙しかった2022年、大学3年生の時に一つの契機となったのが「ヤンマーハナサカレディース」だ。
この試合の直前、永田はツアーの予選会で2戦続けて惜しくも敗退しており、そこに主催者推薦の話が届いて出場が叶ったのだ。「とにかく出場できて何より嬉しかった」と無欲で臨んだ結果、アマチュアながら6位という好成績を収め、ベストアマチュア賞に輝いた。
「琵琶湖カントリー倶楽部はすごく難しいコースで、セッティングもタフだったので、それを攻略できたことで成長を実感できました。あの試合をきっかけに、自分に自信を持つことができたんです」
翌年大会でもベストアマとなり、プロテストは2度目の挑戦で合格した。大学生活をまっとうしてたどり着いたプロの舞台。ただ、その抱負もあくまで慎重な言い回しなのが永田らしい。
「まずはシードを獲得して、来年は勝てる選手になりたい。古江さんが身近な存在なので、いずれ海外とは思っているんですけど……まだそこまでは言えません」
永嶋や永田にとっては下部ツアーでの経験が自信となり、大きなきっかけになった。ヤンマーに創業当時から受け継がれてきた「『人をより豊かにしたい』という想い」。未知の可能性を応援する「HANASAKA(ハナサカ)」の文化は、彼女たちのように回り道をした選手が開花するのを手助けしてきた。
期待の19歳のルーキー・中村心
今年も桜が咲く4月に「ヤンマーハナサカレディース」が開催される。その舞台に強い思いを持って臨むのが、19歳のルーキー、中村心だ。
2023年、高校3年の時には日本ジュニアを制し、日本女子オープンでもローアマを獲得。一気に飛躍していくかに見えたが、プロテストでつまずいた。
「落ちた次の日から、もうクラブを握って練習しました。悔しさを引きずりながらではありましたけど、自分は練習するしかないと思って」
プロになれなかったことで、翌年4月のオーガスタ女子アマに出場する機会を得た。マスターズが行なわれるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブが舞台のビッグイベント。練習ラウンドではオーガスタに咲く花々の美しさに目を奪われ、海外選手のたくましさにも驚かされたという。
「時差解消のためにホテル内のジムに走りに行ったら、海外の選手はみんなトレーニングをしていたんです。試合前でも当たり前に追い込むんだと衝撃を受けました」
その後、2度目の挑戦でプロテストに合格。ただ、QTでは上位進出はならず、まずはステップ・アップ・ツアーでプロ初年度に踏み出すことになった。その歩みは順調なようでいて、あくまでも一歩ずつでもある。
「全部うまくいったらそれが一番いいですけど、プロテストに1回失敗したことで、まだまだなんだと気づけました。自分には必要な時間だったんです。QTの結果も自分の実力。すべて順調にいくよりはどこかでつまずいた方が、私は一層頑張れる力が湧くんじゃないかと思います」
国内開幕戦となる「ヤンマーハナサカレディース」では、高校時代に出場して11位になった実績もある。
「コースは難しいけど、耐えるゴルフは得意。目標は優勝です。早くレギュラーツアーに上がっていける選手になりたい」
根を伸ばし、力を蓄え、花咲くときを待つ。次なる花を咲かせるのは誰だろうか。
サステナブルを目指す「自然共生型ゴルフ場」で開催

会場の琵琶湖カントリー倶楽部は豊かな自然が残る滋賀県最古のゴルフ場で、様々な日本のメジャー大会を開催している名門。2021年にはゴルフ場として、日本初となるCO2排出量実質ゼロのカーボンニュートラルを実現。太陽光発電や木質チップを燃料に使ったバイオマスボイラー、食品廃棄物や刈り取った芝草を堆肥化するバイオコンポスターなどの設備を導入し、「人と自然が共生する」ゴルフ場として注目される。

主催:(一社)日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)
共催:ヤンマーホールディングス株式会社/ヤンマーコーポレーション株式会社
開催期日:2025年4月3日(木)-4月5日(土)
開催場所:琵琶湖カントリー倶楽部(琵琶湖コース・三上コース)
賞金:賞金総額3000万円/優勝賞金540万円
