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《斎藤佑樹が現地取材》エスコンフィールドHOKKAIDOが「世界がまだ見ぬボールパーク」を実現するために導入した最先端の照明設計の秘密

posted2025/03/19 11:00

 
《斎藤佑樹が現地取材》エスコンフィールドHOKKAIDOが「世界がまだ見ぬボールパーク」を実現するために導入した最先端の照明設計の秘密<Number Web> photograph by Shiro Miyake

現在子どもたち向けの野球場建設に取り組んでいる斎藤佑樹

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福田剛

福田剛Tsuyoshi Fukuda

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Shiro Miyake

2023年3月、北の大地に誕生した、「北海道ボールパークFビレッジ」。エスコンフィールドHOKKAIDOをはじめ、施設全体の照明はパナソニックが担当。プレー環境とエンタメ性を両立させた照明設計の秘密に、斎藤佑樹が迫る。

――エスコンフィールドHOKKAIDOの照明は、スタジアム内だけではなく、Fビレッジ内の施設や街灯などもパナソニックが関わっています。斎藤さんは現役の頃、照明を意識したことはありますか?

斎藤 プロ野球の場合、照明は点いているのが当たり前で、正直あまり意識したことはありませんでした。ただ、照明自体はすごく明るいのに、キャッチャーのサインが見づらい球場がありましたが、それくらいはしょうがないものと思っていました。

栗本 グラウンドの明るさの設計基準には2つの種類があり、芝など直接光が当たるところの明るさを「水平面照度」、グラウンド全体の空間の明るさを「鉛直面照度」と呼びます。サインを見えるようにするには、鉛直面照度が明るい必要があります。直接光を当てれば明るくなる水平面照度とは違い、鉛直面照度は照明の位置や照射角度で大きく変わります。斎藤さんが投げづらいと感じた球場はその設計ができていなかったのかもしれませんね。

斎藤 なるほど、それが照明設計なんですね。栗本さんは陸上競技場やサッカースタジアムの照明も担当されているそうですが、どこが一番難しいですか。

栗本 やっぱり野球場ですね。フライを捕るときに顔を上げるので、照明が目に入ってしまい、眩し過ぎるとプレーの妨げになります。照明業界では眩しさを不快感を伴い物の見え方を低下させるという意味で「グレア」と言いますが、グレアを低くし、明るさは保ちながら、選手に眩しさを感じさせない照明設計が求められます。今回のエスコンフィールドはグレアを抑えるのに非常に苦労しました。というのも、グラウンドの鉛直面照度をバランスよく確保するためには一塁側と三塁側から照らす必要があります。ところがエスコンフィールドはそこに大きなビジョンが設置されているため、照明の設置場所がありません。そこでバックネット側と外野側から光を当てることになります。しかし、距離が遠くなると照明の照射角度が上向きになり、選手がグレアを感じやすくなってしまいます。

グレアを抑えた照明設計に最新のVR技術を活用

斎藤 その課題はどうクリアしたのですか。

栗本 通常、野球場では眩しさを抑えるために比較的低出力の「グラウンドビーム1kWクラス」を推奨していますが、今回は設置場所が限られており、器具台数を減らすため、高出力の「スタジアムビーム2kWクラス」をメインに使いました。当然、そのままだと選手が眩しさを感じてしまいます。そこで、フライが飛んできたときに選手の目線に入る可能性がある位置にだけは「グラウンドビーム」を設置しました。

斎藤 確かにこの方法なら明るさを保ちながら眩しさを防ぐことができますね。でもどの照明が目に入るのかは、設置してグラウンドに立たないと分からないですよね。

山田 そうなんです。そこで我々は「スポーツVR」という設計ツールと当社独自のグレア評価理論「ダイレクトGR」を用いて照明器具を直接見た場合のグレアについて検証を重ね、最適な照明の位置や照射角を設計しました。

栗本 「ダイレクトGR」を使うことで、お客様への提案の段階で照明設計に関して精度の高い提案ができるようになりました。

――エスコンフィールドのグラウンドを照らすだけではなく、観客を楽しませる演出にも使われています。

斎藤 レポーターとしてオープニングゲームを見ていましたが、あれだけ多くの照明がイルミネーションのように一瞬で点いたり、消えたりするのを見て、すごい技術だと感心しました。

栗本 照明がLEDになり、瞬時に点灯、消灯ができるようになったことで、フィールド以外にも、選手が滞在するチームエリアは機能的な明るさだけでなく、集中、高揚感、くつろぎなど、場面に応じた心理的な効果を重視した光色を選定し、調光できる間接照明、ダウンライトなどで照明計画をしています。スタジアム外のFビレッジの外構照明も我々が担当し、温かみのある落ち着いた電球色で、光漏れも抑える照明を採用しています。

斎藤 まさにボールパークですね。僕も今子どもたちのための野球場を作りはじめています。ナイター照明は予定していませんが、ちょっとしたイルミネーションを取り入れたいと今のお話を聞いて思いました。

選手と環境に配慮したアウルビームER

――最近は学校や地方球場でも照明をLEDに変えるところが増えています。そこでもパナソニックの照明が使われているそうですね。

山田 そうですね。近年では眩しさを抑えることにこだわった「アウルビームER」が主力になっており、ダイレクトGRと組み合わせてプレーしやすい照明環境を実現しています。これまでグラウンドで使われてきたHIDランプ(高輝度放電灯)は、LEDよりも光の制御が難しく、様々な方向に広がってしまいます。そのためフライを捕ろうとすると照明が目に入りやすくなります。「アウルビームER」は、特定の方向に限定して光を照らすことができるので光が広がらず、グレアを抑制できるため、フライのボールも見やすくなります。また光漏れも抑制するので、“光害(ひかりがい)”対策にも適しています。

斎藤 光害というと?

山田 光が及ぼす悪影響を光害といいます。照明から漏れ出した光が眩しくて近隣の住民が眠れなかったり、田んぼに光が当たり、稲の生育を妨げることがあります。

斎藤 確かに高校で照明を点けて練習をしていると、近隣の方からクレームの電話がかかってくるという話は耳にします。「アウルビームER」に変えることで子どもたちが野球のできる環境、スポーツができる環境が増えていく可能性がありますね。しかもLEDということは、省エネにも繋がりますよね。

山田 HIDランプと比べると消費電力をおよそ6割近く削減できます。

斎藤 スポーツができる環境を整えるだけではなく、地球環境を守るためにも大切なことですね。

――最後にお二人の今後の目標を教えてください。

栗本 これからスポーツと一体になった街づくりが増えていくと思います。選手、観客、住民、その街に関わる全ての人がワクワクするような照明を実現していきたいですね。

山田 アウルビームERのように、必要としているところに光を与え、不要なところには光を出さない。環境配慮を第一に考えた照明を多くの方に届けたいです。

斎藤 環境に配慮した照明設備が増えれば、子どもたちがもっと練習をできるようになり、さらに日本のスポーツ界が発展していくと思います。これからもお二人の活躍に期待しています。

光害対策型投光器アウルビームに、新たに防眩仕様を追加しリニューアル。フィールド外への光漏れを抑制し、眩しさを抑えたことで、より快適な照明環境を創出。

アウルビームER

アウルビームERは、パナソニック独自の光学設計技術により、グレアを抑え競技者がプレーしやすく、周辺環境にも配慮した照明環境を実現。①光漏れの抑制:競技場外の周辺環境への光漏れを大幅に抑制し、近隣住民の生活や農作物の発育を阻害しない。②グレアの低減:競技者が感じる眩しさを低減し、プレーに集中できる快適な環境を提供。③高効率化:一般HID投光器からの同台数置き換えが可能。LED化のメリットを最大限に活用。④軽量化:従来よりも簡単に施工が可能な軽量設計。

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