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「WBC後遺症」と戦う侍投手陣のリアル…ヤクルト・石井弘寿コーチは「感覚のズレは数値にも出ている」自身は第1回大会のケガで手術
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/05/01 11:01
激戦に次ぐ激戦を制した侍ジャパン。戦いの代償を最小限にするためにもプロ野球の現場は試行錯誤している
「本人もWBCの公式球からNPB球に戻す時の感覚の違いがあると話をしていたし、状態をしっかり見て慎重に調整させてあげないと、と思っています。代表でも試合や練習で投げていたから、帰ってきた後にどんどん球数を増やしていけるかというとそんなことはない。感覚のズレは数値にもしっかりと出ているので……」
「後遺症」を見極める判断材料とは
実はこの「数値」こそが、大きなカギだ。ピッチャーのコンディション管理の判断材料として、過去4大会と今回で最も違うのがここ数年で急速に定着した「トラックマン」などのデータシステム。前回大会の2017年頃は、MLBでこそ普及し始めていたが日本球界で導入しているチームは半数程度。ところが現在は全てのチームで何らかのデータシステムを導入しており、チーム付のアナリストがいたり、コーチもデータの扱いに長けてきたりと、その環境は大きく変わった。
「代表に行く前と帰ってきた後で、何がどう変化しているのかも数字で簡単に比較できるので、それは一番大きいところですね。奎二についても、細かいところで言えばホップ率や回転数の数字なんかを見れば、しっかり指にかかっているか、客観的に判断できる。疲労度という点でも数字で分かるので、ここ数年の傾向も踏まえて中6日で回しても持って1カ月なのかな、とか、何となく1回(登板を)飛ばしてあげようかな、となるんですよ。うちに関しては、智さん(伊藤智仁・投手コーチ)がデータ活用やアプローチの中心となってやってくれているので、僕も勉強になっています」
今大会後は、各チームとも代表に参加した投手を慎重に扱っている。DeNAの今永昇太投手がWBC決勝から1カ月あけた4月21日の広島戦で今季初登板したのが顕著な例で、その他の投手も1試合の球数や登板間隔がイレギュラーになっているのが分かる。シーズン前にあれだけの激闘を戦い抜いたのだから“後遺症”が出るのは当然、という前提に立ち、各チームがデータの数値を参考に無理のない起用をしたり、早めに登録抹消して再調整させていることは、ある意味で日本野球界の進歩の証とも言えるのだ。
石井コーチは言う。
「みんなが色々なことを学んで、できる限り長く選手を現役でやらせてあげようという流れになっていることは本当にいいことだと思っています。僕も現役時代にそれ(データ)があったらよかったな、とは思いますよ。あの時代の中継ぎ投手も、登板数をちゃんと管理してもらっていればもっと寿命も延びたと思う。1回目のWBCの僕の怪我も含めてね……」