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「選手とは、そらしゃべらんよ」タイガース・岡田彰布監督65歳の人心掌握術とは?「それを知ってしまったら、勝負に徹しきられへんやんか」
posted2023/05/01 17:01
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
Hideki Sugiyama
◆◆◆
目を疑った。
阪神は開幕2戦目の4月1日、京セラドーム大阪でDeNAと戦っていた。5-5で、6回の攻撃に入る。無死一塁。8番の小幡竜平が2球目でバントを決めた。ベンチに戻ってくると、ナインが出迎えた。そこに、岡田彰布監督も立ち上がって“パータッチ”のしぐさを示したのだ。
18年前の姿が脳裏をかすめた。あのときは椅子に座ったまま、難しい顔をして試合の先読みをしていた。少なくとも、犠打を決めたくらいで、選手をねぎらう監督ではなかった。
ショートでレギュラー候補の小幡は3月、開幕直前のオープン戦で送りバントに失敗していた。岡田の“パータッチ”には意図があった。苦笑いしながら明かす。
「次元が低いかもわからへんけど、普通はバントなんて当たり前のことよ。まあ、一つのバントの価値観とかな。チームに対してもな。そのへんを一つ一つ、積み重ねていかんとな」
小技で生きなければいけない小幡にとってシーズン初の犠打だった。勝負師の珍しいしぐさは若者へのメッセージだろう。
「目線は下げないよ。一軍はこのレベルだという目線を下げたら、チームは強くならない。でも(選手との距離感は)ちょっとは妥協する部分はあるわな」
全然、選手と絡まない岡田監督
こんなこともあった。
4月4日、広島戦の4回に捕手の梅野隆太郎が西川龍馬の二盗を阻むため、小幡にセカンドスロー。きわどいタイミングでセーフになったが、指揮官は終盤に備えてリクエストを思いとどまった。攻守交代でベンチに戻った梅野と小幡に説明した。
「(2回に牽制死した)佐藤輝明のリクエストで、あそこで1回使ってたから、2回目だった。悪いな。ごめんな」
親子以上の年の差がある若手に胸襟を開いていた。私は2004年から5年間の岡田阪神を、スポーツ新聞社のタイガース担当として追っていたが、その当時には見たことがない光景だった。
だが、4月11日から、東京ドームで巨人3連戦に密着すると、そんな印象は裏切られてしまった。「おーん」「アレ」など、いわゆる「岡田語」が話題になるような、ほのぼのしたムードはなく、フィールドには張りつめた空気があった。
「全然、選手と絡まないですね……」
ファインダー越しに覗くカメラマンが首をひねる。試合前練習で、岡田にピントを合わせて、シャッターチャンスを狙ったが、肩透かしを食った。3連戦の試合前練習中、グラウンドでは選手と会話ゼロ。話しかける姿を撮る思惑は外れた。
正確には、一度だけ言葉を交わしている。前夜、4失点で12日に二軍降格が決まっていた浜地真澄が近づいてきた。課題とフォローの言葉を掛けたのだろう。約1分の会話。それだけだった。一軍で戦うナインと言葉を交わすことは、一度もなかった。