沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
田原成貴に聞く“武豊が超一流な理由”と理想のジョッキー像「結局、福永洋一さんに行き着くんです」「祐一くんの引退は寂しいね…」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/12/24 17:03
2022年、ドウデュースで6度目の日本ダービー制覇を成し遂げた武豊。田原成貴氏は同騎手を「もはや歴史上の人物」と称えた
「理想の騎乗法を突き詰めていくと、結局、福永洋一さんの乗り方に行き着くんです。馬に乗っているときに一番大事なことは、騎手の重心と馬の支点がピッタリ合っているかどうか。騎手の理想の姿勢は二等辺三角形の定規を逆さにした形です。肩先と臀端(でんたん)と膝を結ぶ線を引くと、二等辺三角形を逆さにした形になる。二等辺三角形の定規を逆さ(逆三角形)にして指の上に乗せると、ちょうど騎手の馬上でのバランスと同じになります。そうしてバランスを取ったうえで、指に乗せた定規の頂角が尖っていれば尖っているほどいい。ここに『騎手の重心』があって、それを馬が受けている部分をおれは『支点』と呼んでいる。鐙を長くすると重心は太くなります。そのぶん支点の面積が広がり、安定はよくなる。だけど、馬の感じる負担は大きくなるんです。
騎手は重心を針の穴のように小さくしたうえで、ほんの少しだけ前に傾いているといい。で、馬が掛かったとき手綱を引っ張るじゃないですか。すると当然、二等辺三角形の定規は後ろに傾く。もっと悪くなると、底角に相当する肩の位置が変わるので二等辺三角形ではなくなってしまう。馬の上でリュックサックを背負っているように後ろに重心をかけたら、馬が走りづらいのはわかりますよね。
福永洋一さんのすごいところはいろいろあるんだけど、やっぱり基本中の基本である、自分の重心と馬の支点とがピッタリ合っていて、その重心と支点が、もう人間にできる限界だろうというくらい小さな点になっているんです。それでいて軸がまったくブレない。非常に難しいから、あの人にしかできなかった。重心と支点が合っているかどうかは、手を放して乗れるかどうかに通じるものがあります。おれも現役時代、人が見ていないときや、調教師がいないときに、手綱から手を放して乗ってみたこともありましたよ」
「追える・追えない」の本当の意味
自身が現役を引退するころに連続でリーディングを獲得していた武豊騎手についてはどう見ているのだろう。
「騎手として超一流であることは結果が示しているし、もはや歴史上の人物だから、とやかく言わなくてもわかるよね。豊君は追えないと言う人もいるけど、彼は追えます。じゃあ、ライアン・ムーア騎手と豊君のどっちが追えるかというと、全盛期のムーアのほうが追えたと思う。誤解のないよう加えると、これは世界トップレベルでの話ですからね。それに、本来は直線だけ切り離して評価すべきではないんです。直線で馬が動いて、騎手のアクションに鋭く応えてくれるのは、それまで負担をかけずに乗っていたからです。それが結果として『追えた』ということになる。その意味で、道中、重心と支点のバランスを取って馬に負担をかけずに乗ることができるのはどっちかというと、やっぱり豊君とかノリちゃん(横山典弘騎手)とか(福永)祐一君でしょう」