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〈崖っぷちの豪州戦ルポ〉森保ジャパンを救った田中碧の貪欲さと、W杯予選の重みを知る長友佑都が漏らした「安堵の言葉」 

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寺野典子

寺野典子Noriko Terano

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posted2021/10/16 11:00

〈崖っぷちの豪州戦ルポ〉森保ジャパンを救った田中碧の貪欲さと、W杯予選の重みを知る長友佑都が漏らした「安堵の言葉」<Number Web> photograph by Getty Images

試合後、どこかホッとしたような表情を浮かべる長友佑都。ベテランとしてW杯連続出場への重責を背負う

 2-1とリードすると柴崎はポジションを下げて、バランスを取り始めた。その姿勢からは「試合をこのまま終わらせる」という明確な意志が感じられた。足をつった田中を1トップに置きながら、アディショナルタイム4分を消化し、日本はオーストラリアとの6ポイントマッチに勝利した。

思わず漏れた安堵の言葉「つなげられた」

 試合終了の笛が鳴ると、川島永嗣が一番にベンチを飛び出し、ピッチの選手たちのもとへと急いだ。それにつられるように歩く南野の背中に長友が飛びつく。弾ける感情がスタンド上部の記者席にも伝わってくる。

 長友は交代後もベンチ前で声を出し、第4の審判に注意を受けていた。

「ベンチにいても、いつものようにチームを応援していました。浅野がシュートを打ったときは『入ってくれ』と祈っていた」と長友が語った。

 コロナ禍で選手取材もオンラインで行われた。

 記者の多くが質問後に「ナイスゲームでした」と選手に声をかけているなかで、私は長友に「とりあえず、おめでとう」と言葉をかけていた。「とりあえず」というのは自然と出た。すると長友は「つなげられた」と安堵感を漏らした。

 ワールドカップへ出場できないかもしれない。

 アジア最終予選のたびに、そういう声が生まれてきた。最終予選の過程が楽な道でないことは事実だ。けれど過去の苦闘の多くは、アジアでは上位に位置する日本が、自陣に引いてゴールを守る格下相手に苦しむという図式だった。しかし、今回は違う。2大会連続でアジアカップのタイトルを逃した現実が、最終予選で突きつけられている。相手の日本対策を前に敗れたオマーン戦、土俵際に追いやられて、押し切られたように負けたサウジアラビア戦。自分たちの無力さを選手自身が痛感せざるを得ない状況だったはずだ。

 南アフリカ大会予選から数えて、4度目の最終予選を戦っている長友が抱いた危機感も小さくはなかっただろう。

 ワールドカップへの出場を逃すというのは、誰かが辞めるということで済む問題ではない。現代表以外にもカタール大会を目指している多くの日本人選手がいる。そして、世界の舞台で奮闘する日本代表に夢を見る次世代のサッカー選手はもっとたくさんいるのだ。現代表選手たちが、かつてそうであったように。

 初出場の1998年から繋がれてきたバトンを落とすことの重さを、心底わかっていることが長友の安堵の言葉から伝わってきた。

 ベテランと呼ばれる選手たちの感情が勝利の笛とともに弾けたのも、そんな想いがあったからだろう。

【次ページ】 貪欲に「未来」を見据えた田中碧

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