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高梨沙羅が井本直歩子に聞く、アスリートによる環境問題の取り組み方。「どうやって周りを巻き込んだらいいのか」

posted2025/02/07 11:00

 
高梨沙羅が井本直歩子に聞く、アスリートによる環境問題の取り組み方。「どうやって周りを巻き込んだらいいのか」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

雪不足を実感し、近年、環境問題に取り組む高梨沙羅さん

text by

雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph by

Kiichi Matsumoto

スキージャンプの高梨沙羅選手は、世界を転戦しながら雪不足の問題に直面し、自ら環境問題に取り組んでいる。その彼女が頼りにしているのが、元競泳選手の井本直歩子さんだ。井本さんは、スポーツ界横断で使い捨てプラごみゼロを目指すプロジェクト『HEROs PLEDGE』を立ち上げ、活動している。今回、ふたりが「アスリートが環境問題について学び行動する」ことの意味、その拡がりについて語り合った。

井本 確か一番最初は、2021年に私が講師を務めたオンラインセミナーに参加してくれたんですよね。

高梨 はい、そうです。雪不足で試合がなくなったり、天然の雪で競技できなくなることが多くなったのを感じ始めて、危機感を感じていたんです。気候変動の問題について何かできないかなと。

井本 セミナーが終わってからも少し話しましたね。その後、私たちの団体(SDGs in Sports)が主催したウェビナーにも出てくれて。

高梨 井本さんの話を聞く中で、微力ながらでも何かを発信しないといけないと思いました。恥ずかしいというわけではないんですけど、無知な状態で何を発信したらいいんだろう? どう行動したらいいんだろう? とすごく悩んでいたんです。「とにかく発信したり、共有したりするのが大事なんだよ」という言葉に背中を押されました。

井本 私も気候変動の問題について詳しく知っていたわけではないので、ようやくこの問題を一緒に学んで、取り組んでくれる人が見つかった! と嬉しく思っていました。

高梨 あまり興味のなさそうな人に話をする場合、話が続かなかったり、「ちょっとこの子は痛い子なのかな?」みたいに思われちゃいそうな不安もあるじゃないですか。だからこそ話を聞いてくれる人、共有できる場があることに感動しました。

井本 確かに。4年前はまだ「これ若干痛いかな?」とか「なんか恥ずかしい」「こんなこと話していいのかな?」みたいなムードがありましたね。私自身はこれまで途上国支援をして、国連職員だったこともあったので違和感はなかったんですけど、いざ日本のスポーツ界に戻った時に「意識高い系?」みたいな見られ方をすごく感じて、そういう視線が怖かったですね。

高梨 でも自分が変わったのか、周りの環境が変わったのか分かりませんが、何を思われるんだろう? と考えながら発言することがなくなりました。みんな環境や気候変動の問題を身近に捉えるようになってきたと感じます。

井本 それってすごいこと。私からすれば、高梨さんが発言してきたからこそ、普通のことになったという気もします。

高梨 いやいや、そんなことないです。

井本 本当に大きいですよ、高梨さんの存在は。「あんなに有名な高梨沙羅が言ってるんだから、もう当たり前なんだ」。そういう安心感をみんなに与えていると思う。私としては活動の土壌を高梨さんと二人で作り上げてきた、と勝手に思ってるんです。高梨さんは思ってないかもしれないけど(笑)。

高梨 ありがとうございます(笑)。

井本 スポーツ界のプラごみゼロを目指すプロジェクト『HEROs PLEDGE』を昨年3月に立ち上げたときも、「スポーツを通して海洋汚染や気候変動の問題解決に取り組もう」という、同じ志を持つたくさんのアスリートが集まってくれました。さまざまなスポーツ団体の試合会場でも、リユース食器への切り替えやウォーターサーバーの設置、観客への啓蒙活動などを提案し、実際に行われるようになってきています。アスリートが連帯して行動する場がもっともっと広げていきたいですよね。

高梨 私も2年前に、雪山の自然環境を守り、スノースポーツを次世代に残していくためのプロジェクト『JUMP for The Earth』の活動を始めました。今年1月のノルディックスキージャンプ女子ワールドカップの札幌大会では、昨年に続いて地元の藤女子高等学校の生徒、北海道Blue Earth Projectとコラボして、マイボトルを持参したお客さんにドリンクを提供する「マイボトルバー」のブースを出したんです。

井本 とてもいい取り組みですよね。昨年と今年で何か変えたところはありますか?

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