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「すべてのスポーツファンを熱狂させ続けたい」日本のスポーツグッズに変革をもたらしたファナティクス・ジャパンの挑戦

posted2025/01/24 11:00

 
「すべてのスポーツファンを熱狂させ続けたい」日本のスポーツグッズに変革をもたらしたファナティクス・ジャパンの挑戦<Number Web> photograph by Shiro Miyake

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福田剛

福田剛Tsuyoshi Fukuda

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Shiro Miyake

 昨シーズンNPBの入場者数はセ・パ両リーグ合わせ2658万人を超え、コロナ禍前の2019年を上回り、5年ぶりに過去最多を更新した。さらにJリーグでは広島、長崎に新スタジアムが誕生。Bリーグでも日本各地でアリーナの建設が続いている。

 スポーツ観戦を取り巻く環境はここ数年で大きく変貌を遂げている。スポーツ観戦に欠かすことのできない、チームグッズもその一つだ。

 NPBの各球団のオフィシャルショップを覗けば、レプリカユニフォーム、Tシャツ、メガホンといった定番グッズはもちろん、選手の名前入りタオルやペンライト、さらにはアクリルスタンドなど、アイドルのライブグッズ売り場と見紛うばかりのラインナップが揃っている。

「かつてプロ野球ファンといえば、40代以上の男性が多いイメージがありましたが、確実に若い女性ファンが増えています。実際にグッズの購入データを見ると半分は女性が占めています」と語るのは、ファナティクス・ジャパンで代表を務める川名正憲だ。

「チームグッズのこれまでの歴史を振り返ってみると、最初はライセンス契約として、製作も販売もすべて外部の業者に委託し、売上の一部をロイヤリティー収入として得るところからスタートしました。これをフェーズ1とすると、フェーズ2では、ファンの期待に応え、かつ収益を上げるために、NPBの各球団やJリーグのトップクラブが事業として本腰を入れるようになります。自前でグッズを企画・製作し、さらにはショップの運営まで球団が行ってきました。ところが、ファンの要望に応えるために商品点数は増え、さらには商品に何か不具合があったときのためのトレーサビリティへの対応やコンプライアンスのチェック、物流システム化や労務リスク管理など、業務は増える一方です。その問題を改善するために現在は、フェーズ3の段階に来ています。球団はチームのブランディングやイベントなどコアとなる企画を考えることに専念し、実際商品企画・生産・販売・物流などのオペレーションはマーチャンダイジング(MD)の専門家に任せる。新しい時代が始まっています」

 多くのプロスポーツチームで、このフェーズ3を担っているのが、ファナティクス・ジャパンだ。

「球団経営のいろんな事業がある中でも、MD事業は高い専門性が求められる分野になります。スポーツMDのプロ集団として、グッズの商品開発はもちろん品質管理やストア、ECサイトの運営、さらには最短で商品を届けるまでを一気通貫で運営するのが、私たちの役割です」

不確実性の中にこそ、面白さがある

 ファナティクス・ジャパンはアメリカに拠点を置く、世界最大級のスポーツライセンスマーチャンダイズ企業ファナティクスの日本法人として、2018年に設立された。実は日本法人を設立するために来日したファナティクスの創業者マイケル・ルービンは当初、日本のプロスポーツチームとのMD事業は一切考えていなかったという。

「2017年にファナティクスの創業者であるマイケル・ルービンと日本を含むアジア市場進出について意見を交わす機会がありました。そこで日本のスポーツビジネスの規模を説明し、MDのビジネスとして、大きな伸び代があることを説明し、日本のプロスポーツでもMD事業を展開することが決まりました」

 2019年に福岡ソフトバンクホークスと最初の包括的パートナーシップ契約を結ぶと、2020年には清水エスパルスと締結。その後もセレッソ大阪、鹿島アントラーズ、北海道日本ハムファイターズ、読売ジャイアンツなど、現在はNPB5球団、Jリーグ6クラブ、Bリーグ2クラブにまで拡大。さらには昨年開催されたプレミア12や日本で唯一のPGAツアーであるZOZO ChampionshipやATPツアー木下グループジャパンオープンといった大型イベントのMDまで手掛けるなど、わずか6年ほどで急成長を果たした。

 ファナティクス・ジャパンがチームのMDを担うことで、ファンにはどのようなメリットがあるのだろうか。

「スポーツファンであれば、チームの優勝はもちろん、記録、例えば野球の200勝とか2000安打といった大きな記録だけではなく、選手の初ホームランや初勝利の感動や喜びを記念グッズとして形に残したいという想いを誰もが持っていると思います。ファナティクス・ジャパンは商品企画から、製造、出荷まで一気通貫で運営することで、タイムリーにグッズを提供、できる限り早いお届けを実現しています。

 優勝のタイミングや累積の記録はある程度予測ができるので、事前にグッズを用意しておくことができます。難しいのはグッズをゼロから作る場合です。例えばどの新人が活躍するのかは、シーズン前は誰にも分からないですよね。だから予想もしていなかった選手がブレイクすると全然グッズがなくてファンの気持ちに応えられないというケースが起こります。そういう場合でも通常では有り得ないスピードでグッズを提供できるのが我々の強みです」

 とはいえ、勝敗や成績によって売上が大きく左右されるのがこのビジネスの宿命でもある。優勝のタイミングに合わせて準備していたグッズが日の目を見ずに終わることもある。しかし、「不確実性があるからこそスポーツは面白い」と、川名は笑う。

「本来、ビジネスにおいて不確実性は少ない方がいいのですが、でもそこがスポーツ観戦の醍醐味でもあります。不確実性と対峙しながら、いかにファンのみなさんがほしいタイミングで、喜んでいただけるグッズをお届けできるかが我々の使命だと思っています」

ファンのために、これからもアップデートを続ける

 スタジアムに足を運べば必ずオフィシャルショップがあり、ECサイトも充実。あらゆるプロスポーツチームがグッズ販売に力を注いでいる。それでも「スポーツグッズの分野はまだまだ成長の余地がある」と、川名は言う。

「以前はスタジアムのオフィシャルショップに行くと、ユニフォームやTシャツが袋に入ったまま棚に陳列されていました。でも、よく考えたらこれってすごくおかしなことで、街にある洋服屋さんでは、手に取って肌ざわりを確かめたり、着丈を確認できるように袋から出して畳んだり、ハンガー掛けして陳列していますよね。そういう当たり前のことが、この6年でようやく普通にできるようになった段階です。ストアの運営だけをみても、まだまだ改善、成長していく余地は十分にあります。今の日本のプロ野球・J・Bリーグの各球団、クラブは企画のレベルがすごく高いので、ファンが望むことをどんどん発信しています。そこに対してMDとして貢献していくことがより重要になることは間違いありません」

 3月にはMLBドジャース対カブスの東京ドーム開幕戦も控えている。日本中が注目するこの試合に向けての準備が今、急ピッチで進められている。

「昨シーズンの韓国でのMLB開幕戦も我々の管轄でしたので、一昨年の年末に決まってから急いで準備をして、韓国のスポーツ史上最大規模のショップを設営してグッズを販売できました。今回の開幕戦ではそれ以上の過去最大規模のショップを展開するだけではなく、日本全体が盛り上がるようなさまざまな仕掛けを考えていますので、楽しみにしていてください」

 川名には、今も鮮明に覚えている光景がある。

「2019年に初めてZOZO Championshipが開催されることが決まり、そのMDを担当することになりました。日本で初のPGAツアーでタイガーウッズが来日するとは言え、どのくらいグッズが売れるのかまったく予想ができない。未知のチャレンジでした。できる限りのグッズを準備したものの、内心は不安で一杯でした。ところが朝6時に入場ゲートが開いたとたん、お店に何百人もの人が殺到して、みんな笑顔でグッズを購入していくんです。この光景を現場で待機列の整理をしながら見たときに、本当に挑戦してよかったと感じました。もし、我々がグッズを販売しなかったら、ファンのみなさんは、このときの想いや熱量を形として残しておくものがなにもない状態になっていました。グッズを手にしたときの皆さんの笑顔。あの光景は絶対に忘れません」

 ファナティクス・ジャパンには「We Amplify Fandom(ファンを熱狂させ続ける)」というミッションがある。

「商品開発にしてもECやショップでの購買体験にしても、まだまだアップデートできるところはたくさんあるはずです。ファンのみなさんにはこれまでにない商品やサービスを提供していきますので、ぜひ期待してほしいですね」

 すべてはファンのために。ファナティクス・ジャパンの挑戦はこれからも続く。

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