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「負の感情はない」「伊藤匠さんにメールしたんです」永瀬拓矢32歳“80分の本音”を聞いた記者が確信「藤井聡太七冠に勝とうと全力なら、また…」
posted2025/02/11 06:03

立ちはだかる絶対王者・藤井聡太に、日々全力でぶつかる永瀬拓矢。彼の人間性に見せられるファンは多い
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Keiji Ishikawa
第2局の先手番を100%の準備で迎えられるんです
永瀬と佐々木勇気は修業時代から交流があるので、言葉に遠慮がない間柄だ。昨年の竜王戦で佐々木は藤井から2勝を挙げたが、それに手番が関係しているのだという。すぐには意図がわかりかねたが、永瀬の取材ではこういうことがよくある。そしてそういう話は大体興味深いのだ。王将戦第3局終了直後、電話取材の終盤に差し掛かっても、永瀬ワールドは続いていた。
「開幕戦で勇気氏は後手番を引きましたよね。それが善戦しやすい要因です」
大事な開幕戦では、少し有利とされる先手番を引いたほうがいいのではないのか。ところが違うのだという。
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「開幕戦は初日の朝に振り駒をするので、事前に手番がわかりません。だから先手と後手の両方の対策を持って行かなければいけないのですが、同じくらいか、または後手を厚めに研究していく人のほうが多いと思います」
なるほど、少し苦しいとされている後手の研究時間を多く取るのは自然だろう。だから開幕戦は後手を引いた方がわずかに有利ということか。
それだけではなかった。
「開幕戦で後手番を引く一番のメリットは、第2局の先手番を100%の準備で迎えられることなんです」
第1局は両方の研究をしなければならないので、すべてを注ぎ込めない先手番は少し損だということか。そう言えば佐々木は先手番の第2、4局を制している。もちろん手番は理由の一つにすぎないだろうが、納得できる話ではある。
負の感情はなくて…1局でも多く指したいんです
そこまで聞いて、あっと思った。永瀬はこの王将戦の開幕戦で先手番を引いている。3連敗の要因の一つということで、話がつながった。
「私と藤井さんは何局指しても、大体先手側が序盤に60−40でよくなります。それはこの王将戦で3局指して改めて実感しました。まあ、よくなったあとには課題の終盤戦が待っているのですが」と言って永瀬は苦笑した。
第4局は後手番である。
「私は先手後手で差がないほうが幸せだと思います。だって将棋が振り駒で決まってほしくないじゃないですか(笑)。ただこの王将戦のカードは、先ほど言ったように先手が序盤で60を取れる可能戦が高い。でもそれは事実としてそう言っているだけであって、悲観しているわけではない。やることは決まっています。負の感情はなくて、厳しいとかは思っていません。七番勝負の経験値を積むために、1局でも多く指したいんです」
そこまで聞いて、私は取材メモに目を落とした。