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「差を埋めるにはまだ時間がかかる」トルシエが語る日本代表ベスト16敗退の理由と次世代の課題「足りないのは経験とメンタルだ」
posted2022/12/09 11:01
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Sugiyama
フィリップ・トルシエに電話をしたのは、日本対クロアチア戦終了後、森保一、ズラトコ・ダリッチ両監督の会見を終えた直後だった。ドイツ、スペインを下してグループリーグを1位で突破した日本は、4年前のロシアW杯以上に目標であるベスト8に肉薄した。PK戦の末に敗れたクロアチア戦をトルシエはどう見たのか。そして大会を通しての日本を彼はどう評価し、今後に向けてどのようなアドバイスを贈るのか……。
勝敗を分けた経験の差
——試合(クロアチア戦)をどう見ましたか?
トルシエ 日本は準々決勝にかぎりなく近づいた。もちろん残念な部分はあるし不満もある。勝負はPK戦で決まったから結果はとても残念だ。しかし試合内容で評価すれば、クロアチア戦も素晴らしい試合を日本は実現した。経験豊かで偉大な選手たちを揃えたチームに対して、日本は震えることなく対等にプレーした。クロアチアにとってはとても危険な存在だった。日本は胸を張ってピッチを去ることができる。
——その通りではありますが……。
トルシエ 残念なのは経験の差が出た敗戦であったことだ。PK戦はメンタルの戦いだ。頭脳の勝負でもある。日本はそこで精神的に緩んでしまった。そこのレベルを上げていかないと壁は突破できない。日本のW杯は素晴らしかったが、まだやらねばならないことはある。
クロアチアは強力なはずの中盤が疲弊していた。日本は組織が素晴らしく、ボール保持率ではクロアチアが上回ったが、うまくボールを回して攻撃を形作った。感じたのは日本の成熟だ。チームには熱気が充満し、ボールを前に運ぼうとする意志も強かった。
この大会で日本代表は日本の人々を覚醒させた。ドイツとスペインに対する見事な勝利は日本国民の心を鼓舞した。PK戦には小さな不満があるが、日本はこのW杯で大きな成長を遂げた。
——森保監督のコーチングについてはどう思っていますか。堂安(律)を先発出場させたことや選手交代に関してですが。
トルシエ 試合をうまくコントロールしていたと思う。チームはバランスが取れていて、選手は監督の期待によく応えた。たしかに攻撃は右サイドに限られたが、伊東(純也)は本当に素晴らしかった。この試合の彼の出来は最高で、W杯を通してもそうだった。フィジカル面や技術面、動きの質でも世界のトップクラスであることを、彼はこのW杯で見せつけた。仕事に関しては驚くばかりで、知性に溢れるクロスを数多くあげた。
チームの構築はほぼ完ぺきで、攻守によく機能した。森保のコーチングもバランスが取れていた。後半に三笘(薫)を投入して左サイドを強化し、右サイドには酒井(宏樹)を入れて伊東のポジションを上げた。
唯一残念だったのが南野(拓実)だ。リーグアンでのパフォーマンス同様に、彼には大きな失望を感じた。PKの1番手が彼だったのも残念な出来事だった。最初のキッカーは伊東のような選手が適切だった。誰が順番を決めたのか私にはわからないが南野を選んだのは……、彼は試合に入りきれていなかった。このW杯で彼は最後まで輝かず、満足できる試合はなかった。モナコでの低評価がW杯でも繰り返された。