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「差を埋めるにはまだ時間がかかる」トルシエが語る日本代表ベスト16敗退の理由と次世代の課題「足りないのは経験とメンタルだ」 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2022/12/09 11:01

「差を埋めるにはまだ時間がかかる」トルシエが語る日本代表ベスト16敗退の理由と次世代の課題「足りないのは経験とメンタルだ」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

日本代表の戦いを評価しながらも、トルシエはベスト8への課題を明確に論じた

——外国人を別にすれば、彼は日本人としては歴代最高の代表監督と言えますか?

トルシエ 彼が他の監督よりも優れているとは言えない。どの監督も……監督の能力とは結果を出す能力だ。それぞれの監督が自分の仕事をして結果を出した。岡田(武史)の仕事は素晴らしかったし西野(朗)も同じだ。もちろん森保の仕事も素晴らしい。それぞれの監督が多くの困難に直面しながら自らの仕事を成し遂げた。

 W杯には抽選の運不運もあるし、けが人やプレーでの運不運、レフリーの判定もある。森保が見せたのは戦略面の素晴らしさで、スター選手が不在のチームをベスト16に導いた。岡田のチームにも西野のチームにもスターはいたが森保は違う。彼が見出したのは、スターがいない中での最高レベルのコレクティブな結合だった。ハーフタイムに選手を代えて、適切なコーチングで戦い方を変えた。それぞれの試合でチームは異なっていた。

 私が指揮をした1998~2002年のチームと少し似ている。私のチームもコレクティブだったが、森保のチームにもコレクティブな統一感や戦略を感じた。もちろんその中には優れた個を持つ選手たちがいる。久保(建英)や南野は影が薄かったが、三笘や浅野(拓磨)、前田(大然)、伊東、遠藤、田中(碧)、鎌田(大地)、守田(英正)……。彼ら全員が高いレベルにあった。そしてコレクティブな一体感を保っていた。それを作りあげたのは森保の力で、彼が選手に言葉を与え、選手は森保とともに責任を引き受けた。責任を森保と分かち合った。

経験の差を埋めるための方策

——ベスト8という目標を達成し、さらに先に進むためには、これからの4年間に何をしなければならないでしょうか?

トルシエ 繰り返すがすべては出揃っている。そしてメンタルの違いが勝負を分けた。メンタルであり経験の違いだ。日本の選手はこれからもヨーロッパに移籍し続けるべきで、そのためには優れた選手を育成し続けることが不可欠だ。日本協会もそこはよくわかっていて、育成プログラムには常に重きが置かれている。

 この大会に参加した日本のすべての選手が、日本サッカーを世界に知らしめた。今日、日本の選手は、世界から大きな賞賛を受けている。三笘や伊東はチャンピオンズリーグでプレーができる力がある。遠藤や鎌田、田中、守田らもそうだ。

 どれだけ多くの選手がヨーロッパのビッグクラブでプレーしているか。違いはそこから生まれている。伊東はバイエルンでプレーすべきだし三笘はチェルシーでプレーすべきだ。前田がセルティックでプレーするのは素晴らしいが、5~6人がビッグクラブでプレーするようになるべきだ。そこに鍵がある。そこに至ってはじめて日本はPK戦でクロアチアに勝てるようになるだろう。

 だがそこに達していない今はまだ頭脳に問題がある。経験不足や精神的な弱さの問題がある。足りないのはそうしたディテールであって、コーチングの問題ではない。日本に欠けているはコーチングではない。レベルの問題だ。距離を埋めるためには選手たちがヨーロッパのビッグクラブでプレーする必要がある。

【次ページ】 交代枠5人が変えたゲームプラン

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