Jをめぐる冒険BACK NUMBER
“ドイツを追い詰めた本当の勝因”はシステム変更じゃない…「森保さんが提示して、あとは選手が」遠藤航の言葉が示す“4年間の成果”
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/11/24 19:15
堂安律の同点ゴール以降、日本代表は勢いに乗った。それをもたらしたのは森保一監督の采配、そして4年間の積み上げだった
選手たちが主体的に考え、意見を発信し、ピッチ内での対応力を身につけること――。
それこそが、森保監督が西野朗前監督とあのベルギー戦の敗戦から学び、この4年間に一貫して取り組んできたことだった。
今や日本代表選手のほとんどがヨーロッパでプレーしているように、日本サッカーのレベルが上がっているのは間違いない。
とはいえ、スペインやブラジルのように、選手たちがパッと集まって自らのサッカー(スタイルも、戦術も)を表現できるようなレベルにはまだない。
日本のスタイル、固有の戦術や概念はまだなく、ヨーロッパに飛び出した選手たちがその国で、そのチームで戦術を学んでいる状態にある。
これは選手や代表チームの問題ではなく、育成や日本サッカー全体に関わる問題だ。
そうした段階の代表チームを強化するには、監督から何かを与えられるのを待つのではなく、自分たちで考え、行動できる集団を作らなければならなかったわけだ。
「自分たちができるということはある程度分かっていました」
だから指揮官は、サンフレッチェ広島でJリーグを3度制したことが評価されて代表監督に就任したにもかかわらず、その戦術(3-4-2-1をベースとした可変式システム)を植え付けることに固執してこなかった。
ところが、このドイツ戦の後半の頭から、時間をかけて取り組んできたわけではない3-4-2-1を導入して機能させてしまった。遠藤はきっぱりと言う。
「自分たちができるということはある程度分かっていました。森保さんが提示してくれて、あとは選手が対応してやるだけだったんで」
ハーフタイムにシステム変更を決断し、積極的にカードを切ったことが凄いのではなく、目標とした集団に近づきつつあることこそ、森保監督のチャレンジとこの4年間の成果なのではないか。
とはいえ、W杯の戦いはまだ始まったばかり。コスタリカとスペインに敗れれば、すべてが無に帰してしまう。そして、目指すのはグループステージ突破ではなく、ベスト8以上なのだ。
おそらく森保監督は次のコスタリカ戦でメンバーを大きく替えてくるはずだ。殊勲の堂安がスタメンでもおかしくないし、出番のなかった相馬勇紀や上田綺世もラインナップに名を連ねてくるかもしれない。
日本の総力を結集した戦いは、最高のスタートで幕を開けた。しかし、まだ始まったばかりで、何も手に入れてはいない。<つづく>
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