All in the Next ChapterBACK NUMBER

ヒジや肩を故障する高校球児は減少、では今増えているケガとは?「次は打撃による弊害を知ってもらいたい」名医が警鐘を鳴らす 

text by

田中大貴

田中大貴Daiki Tanaka

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2022/08/26 17:00

ヒジや肩を故障する高校球児は減少、では今増えているケガとは?「次は打撃による弊害を知ってもらいたい」名医が警鐘を鳴らす<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

“5枚看板”を擁して甲子園制覇を達成した仙台育英。決勝では10番・斎藤蓉(3年)が7回1失点の好投を見せ、後を受けた11番・高橋煌稀(2年)が試合を締めくくった

 一方で、球数の制限がクローズアップされたことで、指導者にその概念が浸透し、“数を投げないことが正しい”とされたことによる懸念点も発生していると馬見塚医師は話す。

「今の球児は昭和から平成の時代に比べて球数を投げていません。選手にブルペンでのピッチング数を聞くと、1日30~50球と答える事が多い時代になりました。この投球数の減少は、故障リスクを下げるとともに投球動作の“巧みさ”の成長の時間を奪うことや投球のスタミナがつきにくいという懸念があります。

 また、身長が伸びている時期は、先に骨が伸びてあとから骨が強くなりますので、故障しやすい時期となります。一方、トレーニング科学の進化やトレーニングコーチの指導で、“筋量”はとても多くなってきています。この状況をF1レースカーにたとえると、ボディーサイズ(身長)を大きくしたがフレームの強度(骨の強さ)はあまり強くなく、エンジンの馬力(筋量)をアップしたにも関わらず、チューニング(ブルペンでの調整)をあまりやらないでレースに出場するようなもの。球数を投げないことが正しいとなっている現代に体の成長とトレーニング方法をどう合わせるかが今後のポイントになるでしょう」

 成長期である10代の球児たちとあって、身体の成長とサイズに見合ったトレーニングを行うことは非常に重要となる。スポーツ医学的観点から見た場合、たとえば170cm台の投手と190cmを超える佐々木朗希投手では、怪我のリスクは大きく異なる。身長、手足の長さ、骨格、筋肉量などを鑑みると、その発生率は1.2倍もの差があると言う。

「清宮幸太郎選手(日本ハム)のように、早い段階で体が出来上がる子もいれば、佐々木朗希投手のように20歳前後になっても身長が伸びている子もいます。その状況下で無理に筋力をつけ、馬力を上げて、目一杯の力で投げてしまうと怪我のリスクは非常に高い。身長が高く、成長過程であればなおさらで、中には“今はまだ思いっきり投げないほうがいい”投手もいるほどです」

強豪校の球児の体格は大学生と変わらない?

 大阪桐蔭高校を筆頭に、全国の強豪高校の選手のほとんどは東京六大学の選手らと変わらない体格になってきているという。体の成長とトレーニングにスポーツ科学というサイエンスが加わり、怪我のリスクを抑え、そのバランスを追求していった結果、140キロ台のスピードボールは当たり前になった。そしてデータシステムの進化もあいまってアマチュア時代から数値が可視化されるようになった。プロの世界で習得していたものが、今や10代のうちから学べる環境が整い始めている。

 そういったアマチュア野球の進化が、プロ野球界で起きる完全試合やノーヒットノーランといった記録達成に繋がっているとも言えると馬見塚医師は話す。

【次ページ】 最近、増えているバッターの怪我

BACK 1 2 3 NEXT
馬見塚尚孝
佐々木朗希
大船渡高校
斎藤佑樹
清宮幸太郎
早稲田実業高校
大阪桐蔭高校
柳田悠岐
福岡ソフトバンクホークス
森友哉
埼玉西武ライオンズ
北海道日本ハムファイターズ
千葉ロッテマリーンズ
仙台育英高校
斎藤蓉
高橋煌稀

高校野球の前後の記事

ページトップ