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ヒジや肩を故障する高校球児は減少、では今増えているケガとは?「次は打撃による弊害を知ってもらいたい」名医が警鐘を鳴らす
posted2022/08/26 17:00
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph by
Hideki Sugiyama
夏の甲子園を制した仙台育英高校の勝因の1つに「投手層の厚さ」が挙げられる。絶対的エースだけに頼らず、4~5人の投手を継投して勝ち進んでいくシーンは、令和の高校野球のスタンダードと言っていい。
「近年では、肘や肩の痛みを訴えて診察、治療に来る高校球児の数はかなり減少していると思います。これは小中学生も同じ傾向にあります」
そう語るのは、神奈川県川崎市にある「ベースボール&スポーツクリニック」の馬見塚尚孝(まみづか・なおたか)医師だ。1990年代から野球をはじめとする各種スポーツの選手育成・治療を行ってきた名医として知られ、大船渡高校時代の佐々木朗希(ロッテ)のサポートや、甲子園大会で歴代最多948球を投げた斎藤佑樹氏の肘を診察してきた。
「15年ほど前は、私が怪我の予防や球数制限に関する講演を行ってもヤジが飛んでくるような時代でした。しかし、近年は“怪我=指導者の責任”という文化になりました。2年前の球数制限のルール化に加えて、SNSの出現・発展によって指導者の皆さんに私たちの啓発が響くようになったのではと見ています」
「未来だけでなく、今も楽しみたい」球児たち
馬見塚医師は現在も数多くのプロ野球選手を診察する一方で、四半世紀という長きにわたって高校球児、そして小中学生の身体を診察・治療してきた。野球界の潮流を医学的観点だけでなく様々な角度から分析する。
「昭和・平成と令和では概念が変わりました。僕らの時代(昭和・平成)は“みんなが今、苦しいことに逃げずに頑張れば未来にきっと良いことが待っている”と刷り込まれた“未来を大事にする時代”でした。でも令和に入り、“未来だけでなく、今も楽しまないといけない”という時代に変化しています。もう一つは昭和の”組織を大事にする時代“から”個を尊重する時代“へと組織論が変化してきました。インターネットの進化によって個々の選手たちの情報収集力が長け、思考力を高めて判断する時代になったことで、このパラダイムシフトを許容し始めた指導者や学校にいい選手が集まっていると思います。
また、球児だけでなく、その保護者の皆さんの情報収集力も素晴らしいです。診察を通して接していると、体の成長や怪我に関する知識量が多く、今と未来をプレーするためにはどうすべきかを本当によく考えていらっしゃいます。選手や保護者が情報を収集し、選手の成長について考えられる時代になったということです」