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「ラグビーは大好き。でもラグビー界は好きじゃない」畠山健介はなぜ軋轢を恐れず発言してきたのか…今後は“スクラムの調律師”に? 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2022/06/22 11:02

「ラグビーは大好き。でもラグビー界は好きじゃない」畠山健介はなぜ軋轢を恐れず発言してきたのか…今後は“スクラムの調律師”に?<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

欧州や米国でのプレー経験をもとに、日本ラグビー発展に向けたアイデアを口にした畠山健介(36歳)

 ここまで様々なアイデアが湧いてくるのなら、ラグビー界の内部から変化を起こしてもいいのではないかと思う。しかし、畠山は複雑な思いを抱えている。

「僕は、ラグビーは好きです。大好きです。でも、ラグビー界は好きじゃない。僕がラグビー界のことを思って発言したとしても、身内のくせに黙ってろ、みたいな雰囲気は感じます。だったらラグビーから離れたらいい、という考え方もあるでしょう。とはいえ、僕はラグビーが『軸』でしたし、ラグビーしかしてこなかったので、引退してこれから何をしていいのか分からない。これが今の正直な思いです」

 そもそも、畠山はラグビーのどんなところに惹かれてきたのか?

「ラグビーが好きなのは、『不完全』な人たちが集まってひとつのチーム、そして試合を作るからです。体は大きいけれど、走れない人はプロップになる。小さくても器用であれば、スクラムハーフになれる。だから、愛らしいスポーツなんですよ。でも、今は走れて、パスも出来て、スキルもあって、戦術理解もできるパーフェクトな人材がラグビー界に現れてきました。レベルは上がり、完璧な選手は増えてきたと思いますが、何だか愛らしい選手が、いわゆるラガーマンが抜けてきちゃったかな……という気がしています」

全国どこでも出向く「スクラムの調律師」

 今後、どのような活動をしていくかは決まっていない。いま、畠山には改革のアイデアが湧き、そしてラグビー、特にスクラムについては、外から自分の知見を活かす道も模索したいと話す。

「フリージャックスにいた時、怪我をして手術もしたので、スクラム練習でビデオ撮影係になることが多かったんですが、目で見るものと、映像を通して見るものの違いに驚きました。肉眼であれば、スクラムの角度とか、細かい修正点がいくらでも見えてくるのに、映像を通すと情報量が少なくなってしまうんです。

 自分としては、日本代表右プロップとして最多キャップを獲得した経験があるので、自分が培ってきた知見を伝えられたらと思っています。もしお声をかけていただければ、現場に出向いてアドバイス出来たら、と。リソースを最大化するお手伝いがしたいですね。特定のチームに所属するのではなく、全国どこへでも出向くスクラムの『調律師』みたいなイメージです」

 競技生活を終えて36歳。これから長く組む人生というスクラムについて――。

「本当は自由に駆け抜けたいけど、スクラムみたいに腰を低く、頭も下げて、でも力強く、仲間としっかりバインドして、大きくは動かず、少しずつ、少しずつ、いろんなことを押していきたいと思います。これからの生き方も、ラグビーが教えてくれました。本当に感謝しかありません」

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《引退》36歳畠山健介が語る“未熟”だった早稲田ラグビー期とジャパンで出会った“漢”たち「当時は全員がラガーマンでした」

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