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「ラグビーは大好き。でもラグビー界は好きじゃない」畠山健介はなぜ軋轢を恐れず発言してきたのか…今後は“スクラムの調律師”に?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/06/22 11:02
欧州や米国でのプレー経験をもとに、日本ラグビー発展に向けたアイデアを口にした畠山健介(36歳)
畠山には、いろいろなアイデアが浮かんでいる。
「たとえば、数年間プレーした選手には、まとまったお金を前払いする『ファイナンス・パッケージ』みたいなアイデアです。そうすれば安心してプレー出来るし、引退後のセカンドキャリアに歩み出しやすくなるはずです。引退後のことが不安で現役にしがみつくこともなくなり、流動性も高まり、いろいろなチャンスが生まれるはずなんです」
こうした発想が湧いてくるのは、畠山が海外でプレーする経験をしたことも影響している。
畠山は2016年にイングランドのニューカッスル、そして2019年から2021年まではアメリカの「メジャーリーグ・ラグビー」のニューイングランド・フリージャックスでプレーした。
アメリカではコロナ禍にあって「いかにリーグを成立させるか?」というスポーツビジネスの覚悟を目の当たりにした。
「アメリカの根本的な発想は、『どうやったら試合が出来るか?』というものです。たとえば、バスケットボールのNBAは、2020年に感染者を入れない『バブル』を完成させ、なんとかプレーオフをやり切りました。メジャーリーグ・ラグビーも2年目の2020~2021年シーズンには、チームに陽性者が出たとしても、再検査を重ね、試合が実施できる環境を徹底的に探していました。その結果、キャンセルしたゲームはゼロです。すべて開催。完全な形でシーズンを完遂すること、それがスポンサーやファンに対する責任だという姿勢が明確だったからです」
リーグワン初年度は18試合が中止
対照的に、初年度のリーグワンは18試合が中止となった。「感染を拡大させない」という社会的な責任を優先させたことになる。畠山はリーグワンの目的が明確になることを望んでいる。
「トップリーグには、競った試合を増やし、強い代表を作るという明確な目標がありました。それは2015年、2019年の日本代表の成功で一定の評価を得たと思います。では、リーグワンは、どこにターゲットを置くのか? 強化のためのリーグなのか? それとも世界にも誇れる魅力あるリーグ、チームを作るのか? 昇格・降格制度を導入しているということは、トップリーグ同様に競争力を高めることで盛り上げようとしているわけですよね? でも、プロの組織がそればかりでないことは、アメリカのプロスポーツを見ていると分かります」