ぶら野球BACK NUMBER
亀井善行39歳「若手はライバルじゃない」なぜ亀ちゃんは巨人軍で17年間も生き残れた? 大物ドラ1もFA組も…“亀井に負けた”外野手たち
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byNanae Suzuki
posted2021/10/26 11:05
10月23日のヤクルト戦後、亀井善行(39歳)の引退セレモニーが行われた。ファンにお別れの挨拶をする亀井
個人的にこの試合は記者席ではなく、観客席から観戦しようと決めていた。2004年の秋、新卒で入った会社を半年で辞めて初めての転職活動中、しくじった面接の帰りにふと大学野球をやっている神宮球場に立ち寄った。で、どうなる? 俺の将来……なんて客席で灰色のコカ・コーラ片手に不貞腐れていたら、目の前の左バッターが目の覚めるような打球を右翼席へかっ飛ばしたのだ。憂鬱な気分も吹き飛ぶビューティフルアーチ。誰だあれは? スコアボードを確認したら、中央大学の4番ライト。それが亀井という選手との出会いだった。
あれから17年、お互い色々あったなあ……なんて東京ドームの一塁側2階席から、39歳になった背番号9のラストダンスを見守る。恐らく、多くのファンが球場のスタンドで、もしくはテレビの前やスマホの画面越しから、亀井善行とワリカンしてきた長い時間を噛みしめていたはずだ。今季92試合目の出場は、5回の代打での三ゴロから、6回には一度ライトの守りに就いて直後に交代するメジャー流のタツノリ演出。そして、試合後のスピーチまで。
「尚輝、ポジティブに頑張れよ。聖弥、あんたは天才だから、もうちょっとだけ頭使っていけよ」
最後までらしさを貫く後輩たちへの贈る言葉。26歳の吉川尚輝は誰もが認める野球センスの持ち主だが、怪我の多さと体力不足を度々指摘されている。でも亀井のキャリアだって、故障との戦いの連続だった。
セ・リーグ育成出身初の規定打席到達を達成した松原聖弥の課題は、チャンスでの弱さだと言われている。しかし思い返せば、勝負強いイメージがある亀井も若手時代の08年は得点圏打率.232、10年も打率1割台と苦しんだ。
巨人は補強が多い? 毎年のようにライバルがやってくる? だから、なんだ。「亀井を見ろ」と。そんな厳しい環境でひとつずつ課題をクリアして、17年間も生き抜いた先輩がいる。
すべての若手選手たちは、道に迷ったら背番号9の背中を思い出せばいい。そういう希望こそ、この男がチームに残した最大の功績ではないだろうか。
亀井善行が歩んだ道は、確かに巨人の未来へと続いているのである。
See you baseball freak……