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「アスリートってタバコを吸わないから…」野人・岡野雅行と北京の銀メダリスト塚原直貴が語る、ストレスとの向き合い方
posted2024/11/21 11:00
text by
福田剛Tsuyoshi Fukuda
photograph by
Shiro Miyake
野人塾・かけっこ教室での出会いから交流が始まる
――元Jリーガーの岡野雅行さんと元陸上選手の塚原直貴さん、お二人は競技がまったく違いますが、どういう経緯で交流するようになったのでしょうか。
岡野 みなさんご存じのように僕は足が速かったので(笑)、現役の頃から引退したら子どもたちに走り方を教える教室をやってみたらと、ずっと言われていたんです。2013年に引退はしたもののすぐにガイナーレ鳥取のGMに就任したらあまりに忙しくてそのことをすっかり忘れていました。それから数年してGMの仕事も落ち着いてきたタイミングでそういえばかけっこ教室をやってみたら面白そうだなと思い出して、2017年の3月に千葉県の成田市で初めて野人塾・かけっこ教室を開催することにしました。でもいくら走りに自信があるとはいえ、教えるとなると話が違います。そこで誰か専門家はいないかと探していたところ、塚原くんがコーチとして来てくれたんです。
塚原 僕も現役を引退して2年目だったんですけど、たまたま岡野さんと共通の知り合いがいて、今度かけっこ教室をやるから協力してくれないかと声をかけてもらいました。野人・岡野と言えば、小学校の頃から見ていた選手なので、最初はすごく緊張していました。そうしたら岡野さんがすごく気さくに話しかけてくれて。年齢は13歳離れているのですが、いい意味で年齢差を感じないというか。
岡野 二人でマイクを持って子どもたちの前で話をするんですけど、最初からすごく気が合って。そこから毎回かけっこ教室に参加してもらうようになりました。今はだいたい年12回、月1くらいのペースで開催しているのでその度に会っていますね。
塚原 最初に開催した成田市のかけっこ教室はあまりの参加者の多さにびっくりしましたよね。
岡野 400人くらい参加してくれたのかな。僕はサッカー教室もやるんですけど、それよりもはるかに多かったですね(笑)。かけっこは道具もいらないし、どんなスポーツでも走るのは基本だからみんなが楽しめる。塚原コーチの教え方がいいので、ぎこちない走り方をしていた子も、教室が終わる頃にはみんな足を上げてきれいなフォームになっています。最初に50mのタイムを計るときは手を横に振って走っていた女の子が、最後のリレーではジョイナーみたいな走り方になる(笑)。子どもたちが笑顔で走っている姿を見ると、かけっこ教室をやってよかったなと思います。
塚原 教室は1時間30分くらいですが、そのわずかな時間でも子どもたちの動きは、目に見えて変わりますよね。それは走り方だけではなくて、実際にタイムが速くなることで子どもたちもやればできるという自信につながっているのだと思います。そういった刺激を与えることができるのはうれしいですね。
現役の頃は練習がストレス発散になっていた
――岡野さんは現役の頃にストライカーとして点が取れないときにストレスを感じていたそうですが、100分の1秒を競う短距離が専門の塚原さんは、現役の頃はどんなときにストレスを感じていましたか?
塚原 レースが終わって着差が100分の何秒ということもありますけど、それはあくまで結果なので、そこにストレスはあまり感じていませんでした。それよりも自分の体内時計と合わせることをシビアに考えていました。例えば200mを走る時に最初の1本目は22〜3秒から入って、最後の3本目は20秒9とか8で上がると決めたら、実際に自分のイメージ通りのタイムが出せているかという感覚の方を大事にしていたと思います。ただそれが上手くいかないからストレスが溜まるかというと、体を動かしているとある程度発散できるタイプだったので、走る練習をすることがストレス発散にもなっていました。
岡野 僕は日本代表戦のジョホールバルで人生最大のストレスを感じたけど、塚原くんは北京大会では4×100mリレーにも出場しているでしょう。バトンを落としたらって考えただけでもすごいストレスだと思っちゃうけど……。