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哲学を捨ててカネを取ったバルサ。
アルトゥール放出は暗黒の序章か。
posted2020/07/05 11:40
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
バルセロナというクラブの未来に禍根を残すトレードだったと、のちにそう振り返られるのかもしれない。
6月末に発表された、バルサのブラジル代表MFアルトゥールと、ユベントスのボスニア・ヘルツェゴビナ代表MFミラレム・ピアニッチの実質的な交換トレードのことだ。
ともに加入は来シーズンからだが、このヨーロッパを代表するメガクラブ間で実現に至った移籍オペレーションには、とりわけバルサ周辺から「不可解きわまりない」との声が後を絶たない。
それもそうだろう。ただでさえ若返りの必要性が叫ばれている中で、23歳の有望株を手放し、同じインサイドハーフのポジションに30歳の中堅を迎え入れたのだから。
「シャビの再来」を予感させるDNAも。
確かにアルトゥールに関しては、「無難なパスばかり選択し、攻撃に変化をもたらせない」といったパフォーマンスそのものへの辛口評だけでなく、「夜遊びが好きで、体調管理を怠りがち」と、プロ意識の低さに対する批判もあったのは事実だ。
グレミオから2018年の夏に加入当初は、豊かなプレービジョンと卓越したキープ力、そしてテンポのいいパスさばきで玄人筋をも唸らせ、「シャビの再来」と持てはやされたアルトゥールだが、実際2年目の今シーズンは出番が減少し、とりわけ1月のキケ・セティエン監督の就任後はベンチを温める時間が長くなっていた。
それでも、伸びしろは無限にあったはずだ。そのプレースタイルはいかにもバルサ向きで、カンテラ育ちではないが、「バルサのDNA」が色濃く感じられるタレントだった。
2年弱で失格の烙印を押すのは、いかにも早計だ。近い将来、今シーズン加入のフレンキー・デヨング(23歳)をアンカーに置き、その前方にラ・マシアの希望の星リキ・プッチ(20歳)とアルトゥールを並べる中盤が見られると期待していたファンは、おそらく少なくないと思う。
なにより悲しいのは、そうしてバルサイズムを継承していくはずだった人材を、財務上の問題処理のために利用し、あっさりと手放してしまったことだ。
それは、カネのためにフィロソフィーを捨てたと言い換えてもいい。