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哲学を捨ててカネを取ったバルサ。
アルトゥール放出は暗黒の序章か。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/07/05 11:40
かつてのシャビ的な役割を期待して獲得したはずのアルトゥール。彼を生かせぬまま放出したバルサ強化部の責任は重い。
コロナ禍の会計処理での売却か。
今回バルサは、アルトゥールを7200万ユーロ(約87億円)+インセンティブ1000万ユーロ(約12億円)でユーベに売却し、一方でピアニッチを6000万ユーロ(約72億円)+インセンティブ500万ユーロ(約6億円)で獲得した。
つまり、差額の1200万ユーロ(約14億円)が懐に入る計算だが、ピアニッチの獲得費用は償却が始まる2020-21シーズンに回されるため、帳簿上、今シーズンの収益は7200万ユーロからアルトゥールの減価償却分(2018年に3100万ユーロの6年契約で獲得し、それから2年が経過したので残りは2000万ユーロ程度)を引いた約5200万ユーロ(約62億円)として計上されるのだ。
要するに「コロナ禍」の影響も受けて財政難に苦しむバルサが、FFP(ファイナンシャルフェアプレー)に抵触しないよう、(ずる)賢く会計処理を操作したということだろう。
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いずれにしても、一時しのぎの財務調整のために、将来を有望視されていた、そしてバルサでの成功を夢見て、最後の最後までユーベ行きを拒み続けた1人のMFが犠牲になったことだけは間違いない。
アルトゥールよりもレジスタ的な資質に恵まれ、セルヒオ・ブスケッツの代役も十分に務まるピアニッチは、疑いようのない即戦力だ。FKの精度はリオネル・メッシにも見劣りしない。だが、仮にピアニッチが加入した来シーズンのバルサがなんらかのタイトルを獲得したとしても、素直には喜べないと思う。
マケレレ売却で崩れた「銀河系軍団」。
連想するのは、「銀河系軍団」と呼ばれた2000年代前半のレアル・マドリーだ。当時、ジネディーヌ・ジダンやロナウドといった前線のスーパースターを中盤の底から支えていたのが、守備職人クロード・マケレレだった。
しかし、フロレンティーノ・ペレス会長は「守備しかしない地味な選手に高給は払えない」とその存在を軽視し、2003年の夏にあっさりとチェルシーに売却する。それが、銀河系の終わりの始まりだった。
チームにとって本当に失ってはいけないもの、守り抜かなくてはならないものはなんなのか。今回、カネのためにバルサイズムを踏みにじったジョゼップ・マリア・バルトメウ会長を筆頭とする経営陣の判断が、将来に禍根を残す可能性はやはり小さくない。