フランス・フットボール通信BACK NUMBER
量子力学の学者がサッカーを変える!
リバプールの頭脳“ラップトップガイズ”。
posted2019/10/27 09:00
text by
ティエリー・マルシャンThierry Marchand
photograph by
David Vintiner
ユルゲン・クロップ監督とともにかつての栄光を取り戻したリバプールFC。だが、リバプールがヨーロッパのトップに返り咲いたのはクロップだけの功績ではない。もうひとつ、陰の原動力となったのが、ジョン・W・ヘンリーが2010年にクラブオーナーに就任すると同時に編成された「調査分析部門」であった。
量子物理学の方法論を適用した革新的なデータ解析は、リバプールのサッカーへのアプローチを別次元へと押し上げた。『フランス・フットボール』誌9月17日発売号で、ティエリー・マルシャン記者がレッズの情報革命をレポートしている。
監修:田村修一
『マネー・ボール』革命をサッカーでも。
マージー川の肥沃な土壌は、常に開墾のときを待っている。2010年10月、リバプールFCを買収した数日後にジョン・W・ヘンリーは、ダミアン・コモリをスポーティングディレクターに任命した。アーセナルでスカウトとして働き、トッテナムではクラブ運営に携わったコモリは、MLBオークランド・アスレチックスのGMを務めていたビリー・ビーンと親しかった。ブラッド・ピット主演の映画にもなったマイケル・ルイスによる『マネー・ボール』で著名なビーンは、統計学的なアプローチによってモダンスポーツの在り方を一新させた人物である。選手の価値も、彼のやり方で合理的かつ客観的に計ることが可能となった。
コモリも彼の方法論をトッテナムで適用していた。リバプールに招聘されたコモリは、トッテナム時代のスタッフだったイアン・グラハムをレッズに引き抜いた。ケンブリッジで物理学の学位を取得したグラハムは、現在はリバプールのリサーチ部門のディレクターに就いている。
当時は批判され、罵詈雑言すら浴びせられたコモリが、どれほど革新的な仕事を成し遂げたかはほとんど顧みられていない。
だが、彼こそは真の先駆者であった。
そして幸運だったのは、彼を雇い入れたのが、経済面も含めたサッカーへの合理的なアプローチに大きな関心を抱いているオーナーであったことだった。