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量子力学の学者がサッカーを変える!
リバプールの頭脳“ラップトップガイズ”。
text by
ティエリー・マルシャンThierry Marchand
photograph byDavid Vintiner
posted2019/10/27 09:00
“リバプールの頭脳”イアン・グラハム。ケンブリッジ大学卒の物理学者はサッカーの戦略を変えた。
データ分析でサラーの獲得を決める。
グラハム自身は実際の試合を一度も見てはいない。ときに人間の目による観察とは異なる結果を示すデータの集積を通して、彼は分析をおこなう。人間が強さや美しさを求めるのであれば、データは数字の本質を求める。換言すればあらゆる事象の効率と経験に基づく客観性を常に求めている、ということだ。本質的にデータは中立であり、状況に支配されず逆に状況を作り出す。何かをデータ自体が判断することはないのである。
彼らの分析をもとにリバプールは、2年前にモハメド・サラーを獲得した。
グラハムが提示したデータは、サラーがロベルト・フィルミーノと理想的なペアを組みうることを示していた――ふたりが並び立ったときに、ゴールの確率が最も高くなると。実際、サラーは、この2シーズンに合計54得点を挙げて、プレミアリーグ得点王を連続で獲得している。
グラハムのデータは、2013年にフィリペ・コウチーニョを獲得した際にも大きな論議を呼んだ。
インテルから1300万ユーロで獲得したコウチーニョは、その後、バルセロナに1億4500万ユーロで売却された。相前後してレッズは、ビルヒル・ファンダイクとアリソン、ファビーニョを次々と獲得。彼の違約金なくしては、3人の移籍が実現することはなかったのだった。
選手は資産であり投資の対象である。
あらゆるデータを駆使して、ラップトップガイズは選手を評価する。
選手は資産であり投資の対象である。
分析に際してはどんな些細なことも曖昧なままにしない。アウトオブプレーの動きも含め、すべては数値化され指標に置き換えられる。
「微細な動きも詳細に分析する。何故ならその分析により新たなアプローチが可能になるからだ」とスピアーマンは語る。
彼らの手法はサッカーというよりアメリカンフットボールのアプローチに近いかも知れない。戦術の行動図が詳細に作成され、アタッカーたちに辿るべきルートを示しゴールへの道を切り開く――。
アメリカ文化はサッカーに新たなテクノロジーを持ち込んだ。それはサッカーの偶然性に魅力を感じるサッカー至上主義者にとっては、決して心地よいものではないかもしれないが。
そしてリバプールはといえば、人々がサッカーに抱く心地よい幻想を日々剥奪しながら、さらなる高みを目ざしているのである。