フランス・フットボール通信BACK NUMBER
量子力学の学者がサッカーを変える!
リバプールの頭脳“ラップトップガイズ”。
text by
ティエリー・マルシャンThierry Marchand
photograph byDavid Vintiner
posted2019/10/27 09:00
“リバプールの頭脳”イアン・グラハム。ケンブリッジ大学卒の物理学者はサッカーの戦略を変えた。
物理学者はデータ分析のスペシャリスト。
スピアーマン同様にポルトガル人ジョアン・ペケーノも、以前はジュネーブのCERN(欧州原子核研究機構)に籍を置いていた学者である。
サッカーと物理学の関係を彼が説明する。
「陽子を正面から衝突させるためにわれわれは素粒子加速器を使う。そして素粒子の衝撃の方向性を見出そうとする。ウィルがやってきたことはまさにそれで、彼はそこで生じたことを理解するためのモチーフとモデルを見出そうとしてデータを分析した。
今、彼は、パスやシュート、選手のポジションなどプレーのデータに関してリバプールでまったく同じことをしている。
それぞれの状況にとって最も望ましいモデルを見出そうとする試みだ。というのもデータの理解を可能にする分析の後では、シミュレーションが行えるからだ。ひとつのモデルを採用して、どうして事態がこのように進んだかを理解しようとする。ある選手をピッチのこの位置に、この状況に置いたならば、と……。
物理学者はデータ分析のスペシャリストだ。金融や自動車業界では彼らのやり方が取り入れられているのに、どうしてサッカーでできないことがあろうか。高度の判断を下すために、クラブの首脳たちは質の高いデータを求めている。ウィルは優れた情報を監督とクラブの幹部たちに提供した」
「量子物理学もひとつのチームスポーツだ」
ペケーノは“陽子のフットボール”という名のゲームを考案した。彼にとって両者の結合は必然だった。
「サッカー同様に、量子物理学もひとつのチームスポーツであるといえる。ひとつひとつの衝撃、ひとつひとつの加速やアクションが次の相互作用を引き起こす。シュートやパスをするとき、選手はボールに影響を与えることで目的の達成を試みる。それは磁場において粒子を衝突させるために物理学者が磁石を使っておこなう操作と全く同じだ。それぞれの衝突が、宇宙を理解するための何かを見出だす希望を生む」
彼の言葉は、かつてサム・アラダイスが「サッカーというスポーツは、統計に依拠するにはあまりに予測不能なことが多すぎる」と語ったのとは隔世の感がある。恐竜が支配する時代は過去のものとなり、イアン・グラハムとラップトップガイズによりリバプールは新たなステージへ到達したといえる。