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ダル移籍後の日本ハムと重なる、
田中のいない楽天が強い2つの理由。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/03/27 10:40
216cmのルーク・ファンミルのゴムひもダッシュに勢いよく引っ張られて驚く松井裕樹。やわらかい雰囲気の楽天で、伸び伸びとプロ1年目のシーズンへ準備を進めている。
楽天の気配が良好だ。オープン戦は12勝3敗2分けで2位につけた。
現在のところ、大黒柱である田中将大が抜けた穴をまったく感じさせない。いや、むしろ、競争が激しくなり、チームが活性化しているようにさえ映る。
その象徴がゴールデンルーキーの松井裕樹だろう。
大エースが抜けて、それでも強くなった例というと、真っ先に思い出すのは2012年の日本ハムだ。
前年18勝をあげたダルビッシュが海外移籍し、大幅な戦力ダウンが予想された。だが代わって吉川光夫が14勝するなど穴を埋め、新監督の栗山英樹のもと、見事にリーグ優勝を飾った。
2012年の日本ハムと、今季の楽天には、2つの共通点がある。
(1)エースのメジャー行きが、ある程度まで予想されていた。
(2)育成力が充実しているときにエースが抜けた
まず、ダルビッシュが抜けたときと同様、楽天のスタッフや選手も2014年から田中がいなくなることを見越し、相応の心構えはできていたはずだ。だから、驚きはなかっただろうし、前向きにとらえられた。
そして特に重要なのは(2)だ。日本ハムは北海道に移転してからというもの、小笠原道大が抜けたときもそうだったが、大きなマイナスを常に育成力でプラスに変えてきた球団だ。
今いる選手が一年を経ることが最大の補強。
チーム統括本部長の吉村浩が説明する。
「うちは補強をしないしないって言われてますけど、それは言葉の意味のとらえ方が違うだけなんです。私が考える最大の補強とは、今いる選手たちが一年を経る、ということ。
たとえば、レギュラーがひとり抜けることで、前の年、イースタン・リーグでものすごく打った選手が一軍でプレーするチャンスを与えられる。これ以上の補強はないわけです。だから、そこに一軍半の選手をよそから獲ってくるというのは、その補強に蓋をしてしまうことになりかねない。うちにとってはプラスどころかマイナスでしかないんです」
日本ハムは近年、この方針を貫いている。資金力があり、毎年、よそから大物選手を連れてこられる球団だと、せっかく力をつけつつある若手たちのモチベーションが失われてしまう。獲らないからこそ得られる育成力なのだ。