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「涙が、ドバーって出てきました」坂本花織がフィギュア世界選手権で味わった“完全な敗北”の先「ミラノ五輪に向けて…超ラッキーじゃんって」
posted2025/04/09 11:00

4連覇がかかったフィギュアスケート世界選手権で銀メダルとなった坂本花織。優勝したアリサ・リュウに完全な敗北を喫しつつも、来年のミラノ五輪に向けて「超ラッキー」と語る理由とは…
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野口美惠Yoshie Noguchi
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Getty Images
ボストンで開催された2025年世界選手権。女子フリーで最高の演技をみせ217.98点へと追い上げた坂本花織は、「現在の順位1位」の選手が座るチェアで、残る4人の演技を見守った。最終滑走のアリサ・リュウがパーフェクトの演技を決めると、素直に涙が出てきた。
「演技直後は、自分はよく頑張ったなって思って泣いて。アリサがパーフェクトの演技をしたのを見て『これは負けたな』と思うと同時に、アリサも復帰してから努力してきたのが分かっていたから感動で泣きました」
得点が表示されると、優勝を決めたアリサと抱き合う。
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「それまでは本当に感動の涙だったんですけど、『おめでとう』って言った直後から、ハグしている間に悔し涙に変わって、そしたらポロポロだった涙が、ドバーって出てきました。嬉しい後に、悔しすぎて、泣いても、泣いても、涙が止まらなくなりました」
自分の演技への喜び、負けた悔しさ、緊張から開放された安堵感、さまざまな感情が巡る。坂本の涙に、今季の彼女の戦いのすべてが詰まっていた。
世界選手権3連覇に「肩書き、重いなあ」
『優勝候補は、世界選手権3連覇の坂本』。幾度となくそう報道され、重圧を背負い、シーズンを送ってきた。
「『肩書、重いなあ』と思う時はありました。試合に来た時や、ネットでニュースを見た時です。でも、この『3』が『4』に変わったらカッコいいなと思う気持ちもあったので、頑張っていました」
ポジティブな坂本だからこそ、その重圧を他人には感じさせないように振る舞う。しかし世界選手権3連覇という肩書は、知らず知らずのうちに、今季の調子の波となって現れていた。GPファイナルは3位、アジア冬季大会は2位と、主要国際大会での爆発力がなかったのも、重圧を考えれば、通るべくして通る道だった。
そして始まったボストンでの世界選手権。ショートは「Resurrection del Angel/La muerte del Angel」で、技の切れ味を活かしたノリの良いプログラムだ。
「最初一歩出たときにフラっとしたので『これは悪い緊張だ』と思いました」
前半2本のジャンプは完璧だったが、後半の3回転フリップが2回転になり、とっさに3回転をつけたものの「2回転+3回転」のジャンプになってしまった。
「フリップの構えの時点で、不安がよぎってしまったのが良くなかったです。2回転になったときは『うわっ』と思いましたが『まだ諦めなければ3回転行ける』と思って跳びました。結果的にGOE(出来栄え)も加点がついたので、ミスを最小限に抑えたとは思います」
緊張で「バスの中から泣きそうでした」
71.03点の得点を見た瞬間、驚いたような顔を見せた。首位と3.55点差の5位発進だった。