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「福島大の練習、エグイな…」男子選手も驚愕…なぜ“福島の国立大学”が女子スプリント界を席巻できた?「毎日がナショナルチーム合宿のようで」
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by(L)Hideki Sugiyama、(R)AFLO
posted2024/11/07 11:01
16年破られない女子400mの日本記録保持者である千葉麻美。その傑出した走力は、当時「最強」と言われた福島大での経験が大きかったという
「400mはメンタルがかかわってくる種目です。『ちょっと無理かも』とか『きついな』と思った瞬間に走れなくなる種目だと思うんです。自分はマイペースな性格なので、辛い練習もあまりストレスになりませんでした」
こう話す千葉のメンタルの保ち方も独特なものだった。それは競技場を一歩出たら「チームメイトに絶対に会わない」ということだ。
福島大の陸上部には寮はなかったが、多くの部員が同じアパートに住んでいた。だが、千葉はそこから少し離れたところにアパートを借り、グラウンド外では誰にも会わないようにしていた。チームメイトに食事などに誘われても断るという徹底ぶりだった。
「自分1人の時間を必ず確保することは徹底していました。チームメイトと一緒にいると、どうしても陸上のことを考えてしまうので、オフは必ず1人で過ごし、自由にダラダラ過ごしていました。そうすることで、自分で心のコントロールがうまくできていたんだと思います」
このオンオフの切り替えのうまさが、試合で爆発的な力を発揮できる要因でもあった。
男子選手が合宿で「福島大の練習、エグイな…」
もちろん川本監督が彼女たちに課す練習も相当厳しいものだった。
「福島大の練習、エグイな……」
沖縄で合宿を行っていた際に、他大学の男子選手に驚かれたことがあったという。
「自分たちには毎日それが普通だったのですが、その時に『すごいことをやっているんだ』と実感しました」
福島大には、千葉が今なお忘れることのできない地獄の練習メニューがあった。その名も『サバイバル40秒走』。
「“サバイバル”というのはイメージが良くないということで、川本先生は“サバイバル40秒走”から“ステップアップ40秒走”に呼び方を変えていたんですけど、私たちにとってはずっと“サバイバル”でしたね」
その練習は、4~5分の休憩を挟みながら、40秒で走れる距離を徐々に伸ばしていくというものだ。1本目は40秒間で200mなのでゆっくりだが、2本目は210m、3本目は220m、4本目は230mと10m刻みで距離を伸ばしていくので、必然的にペースが速くなる。さらに、230m以降は5m刻みで距離を伸ばしていき、それをオールアウトするまで続ける。
「冬季練習では1週間に1回ぐらいあるので、その日はつらすぎました」