それが暗転したのが、中3の夏の大会の予選である。これまで4度も勝ってきたチーム相手に、1試合で10以上もの失策を記録、1回戦で敗れてしまうのである。

「びっくりしました。その試合に限ってナインがエラーを連発したんです。『ふざけんな、いい加減にしろ。もうやってられない』って激怒ですよ。ショートの子なんか4度もエラー。1分間くらいマウンドでじーっと睨みましたもの（笑）」

　それから23年経った今、38歳になり、3人の子供を育てる近藤には、チームメイトがエラーを連発した理由が手に取るようにわかるという。

「僕がチームメイトにプレッシャーをかけ続けていたんです。それで萎縮させてしまっていた。野球って真剣勝負ではあっても、もっとリラックスしてやるもんだし、そうしないと成功しない。本来なら『ドンマイ』とか『気にすんなよ』って声をかけるべきでした。今、エンゼルスの大谷翔平選手を見ていたら、それがよく理解出来る。彼はチームメイトへの気配りが凄いですね。『大人だなあ』って思う。15歳の僕は本当に子供でした」

「野球はやめた。ボクシングやろう」

　ともかく、この敗戦を機に「野球そのものが嫌になった」という近藤は、無為な日々を過ごすことになる。そんな最中に、たまたまテレビで目にしたのが「WBA世界ライト級タイトルマッチ・ヒルベルト・セラノ（ベネズエラ）対畑山隆則（横浜光）」の一戦だった。

　前年、ラクバ・シン（モンゴル）に敗れ、虎の子のWBA世界スーパーフェザー級のベルトを失った畑山は、芸能活動に軸足を移すなど、そのまま現役引退かと思われたが、まさかの現役続行。それも「1階級上げての世界ライト級王座挑戦」という異例の復帰戦を迎えたのである。

2000年6月11日、WBAライト級世界戦。畑山隆則が王者セラノに挑戦し、8RTKO勝ち　©JIJI PRESS

　無謀とも言えるマッチメイクだったが、大方の予想を覆し、8RTKO勝利。ガッツ石松以来となる東洋人2人目の世界王座奪取という偉業を成し遂げた。

「めちゃくちゃ興奮しました。『もう、これしかない。野球はやめた。ボクシングやろう』ってあの試合を見て決めたんです」

連日の電話「大学からのオファー合戦だった」

　すぐ、埼玉県内のボクシングジムに入門し、練習漬けの毎日を送った。県下の野球関係者は「野球に戻れ」と何度も言ってきたが、まったく聞く耳を持たなかった。逆に喜んだのがボクシング関係者である。「将来有望なエースで4番」は正真正銘のフィジカルエリートであり、ボクシング界にとっても金の卵だったからだ。

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