「村田君は当時からミドルで僕はライトですから、階級が4つも上。重いクラスは練習相手がいないんで大変なんです。それもあって彼は相当イラついていた。『僕がですか？』って言ったけど『頼む』って言われて結局やることになった。そしたらゴングと同時に『ガーッ』ってラッシュをかけて来たんです。驚きました。『やばい、壊される』って（苦笑）」

　練習後、松屋で一緒に晩飯を食べた。

「何であんなにガツガツ打ってきたの？」と近藤が訊くと「え、だってコンちゃん、打たれ強いから大丈夫やろ」と村田は平然と言ってのけたという。

　この時期、村田諒太は練習相手を求めて、プロのジムに頻繁に出稽古に行っていた。早い話が武者修行である。

「『コンちゃんも一緒に行こうや』って誘われたこともありました。村田君は『今日はワタナベに行ってきた』とか『明日は帝拳に行く』とかよく言ってましたね」

　筆者にも一片の記憶がある。試合を控えたK‐1ファイター、魔裟斗の合同練習に出向いた際、練習後の囲み取材で「最近はどこでどんな練習を？」という記者の質問に、魔裟斗はこう答えた。

「ボクシングのトレーナーの飯田（裕）さんにテクニックを見てもらってます。昨日は飯田さんが連れて来た大学のボクシング部の子と3Rのスパーリングをやりました。その子は結構パンチありましたね」

　魔裟斗のスパーリングパートナーをつとめた「大学のボクシング部の子」こそ学生時代の村田諒太だった。

「魔裟斗さんとはちょくちょくスパーをやってたみたいです。『昨日も魔裟斗さんとやってきた』とか聞いていましたから。『凄いなあ、練習熱心だなあ』って他人事のように感心しながら聞いたのを憶えています（苦笑）」

　そんな同期生の姿に触発されながら、近藤のモチベーションは一向に上がることはなかった。

　2006年3月、近藤明広は東洋大学を中退した。

＜続く＞

#2に続く

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