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「お前、野球じゃ通用しないでしょ」“開成高野球部1000年に1人の逸材”は東大野球部で挫折した…文武両道の天才は東大卒業後、何になった?
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/04/04 11:06
東大野球部のリードオフマンとして活躍した宮崎湧。宮崎には「開成、1000年に1人の逸材」というキャッチコピーがある
「奥野雄介はもともと力任せにぶん投げて、ストライクが入らないという問題点があったわけです。高校のときにずいぶん指導しましたが、大学では自分が気持ちいい投げ方をしてしまった印象。最後に1勝しましたけど、彼のポテンシャルを考えたら、もっと活躍できたはず。あんな成績では、勘弁してやんねえぞってレベルです」
東大入学前、「お前はベストナインを3回取れ」と厳命した「1000年に1人」の男・宮崎にはさらに厳しい。
「力量はあるはずなのに、結果が全然ダメ。あれでは活躍したとは言えない。4年間でホームランを1本も打っていないのも不満です。スイングスピードは速いし、ボールに対する反応もいいんですけど、いかんせん物理的に打ち方に難がある。ボールに対して、自分の力を100%伝えられず、ロスしちゃってる。彼のスイングの力のうち、ボールに伝わっているのは20~30%くらいでしょう。社会人野球で彼を採用してくれた企業には、ひとえに感謝、それ以外ないです」
「『1000年に1人の逸材』、まだバレてないです(笑)」
もちろん教え子たちは東大時代の自分に満足しているはずもなく、社会人というさらなる高い舞台で研鑽を積んでいる。そして、開成や東大との違いもひしひしと感じている。奥野はこう語る。
「東大は1勝したらニュースになる環境ですが、社会人は勝って当たり前だし、勝たないといけない。そのためには最大値をどう出すかではなく、平均値をどう高めるかが求められていますね。周りの先輩方は、練習中にただ自分の投げたいように投げるのではなく、試合で追い込まれた場面を想定して投げたりしている。同期の投手も、調子が悪いときに備えて牽制でアウトにする練習をするなど、負けない工夫が徹底されている。東大ではそこまで意識が及ばなかったし、甘かったと感じています。ですが、僕はうまい選手を見るとワクワクするタイプなので、モチベーションは上がっていますね」
自分の可能性を試すことに喜びを感じるのは、開成野球部で育まれたイズムの一端なのだろう。最後に、宮崎の言葉を紹介しよう。
「社会人で野球をしようと決めた理由は、自分がマックスまでうまくなって満足して野球をやめたいから。それは開成時代から、誰かとの競争よりも自分の能力を高めることに注力してきたこととつながっている。ただ、人とのギャップを認識することは大事で、そうでないと単なる井の中の蛙。その点は高校時代から変わったことで、うまい人が周りにいるのはいい環境だと思います。その差を認識した上で埋めるために自主練を続けるわけで、それは自分との戦いですね。『1000年に1人』のキャッチコピーですか? まだ社会人チームではバレてないです(笑)」
開成から東大という学業のエリート街道を歩んだ2人だが、誰にも負けない野球愛をひしひしと感じる。今年、彼らがどんな活躍を見せるのか、楽しみである。また、昨年の開成高校には最速139キロという本格派エースも登場した。開成出身の有望選手が、今後も東大野球部で活躍するに違いない。
<#1、#2から続く>