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「お前、野球じゃ通用しないでしょ」“開成高野球部1000年に1人の逸材”は東大野球部で挫折した…文武両道の天才は東大卒業後、何になった?
posted2023/04/04 11:06
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph by
Hideki Sugiyama
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「開成高野球部、1000年に1人の逸材」の心が折れかけた
前記事<「防御率は23点台…眠れないほど悔しかった」偏差値70超・開成高野球部出身“打たれまくった”ピッチャーが東大野球部の64連敗を止めるまで>では、開成野球部から東大野球部を経て、昨年、三菱自動車倉敷オーシャンズに進んだ奥野雄介(22年卒)を取り上げた。その奥野の背中を見ていたのが、1学年下の「開成、1000年に1人の逸材」宮崎湧(23年卒、崎の字は正しくはたつさき)である。宮崎も合格発表後すぐに東大野球部の練習へ参加。東大の個人記録である通算70安打を塗り替えるという目標に燃え、1年春からリーグ戦に出場すべく練習に励んだが、現実はそう簡単ではなかった。
「先輩はみんなうまく見えましたし、自分の売りだと思っていた足の速さが、じつは大したことないと知って心が折れそうでしたね。ならばバッティングで目立つしかないですが、自分は飛距離が出るわけでもないのでなかなかアピールも難しい。どうしたものかなと悩んだ記憶があります」
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しかし、1年春に出場したフレッシュリーグ(新人戦)の初戦で、小さな自信を得た。
「フレッシュの初戦の相手は早稲田で、僕の打席では、同世代の早稲田実業のエースだった雪山幹太が投げていました。甲子園に出ているような相手と対戦する状況に興奮しましたが、140キロ近いボールなのに意外とついていけたんです。ファウルで粘って、結果的にはセンターライナーでしたが、『東京六大学でも、自分はやっていけるんじゃないか』という手応えを感じました」
「東大がボロ負けするパターン」
さらに、続くフレッシュリーグの法政戦では、4打数3安打の大活躍。特に同点三塁打は、「あと1本」が出ない貧打線のなかでインパクトじゅうぶんだ。かくして首脳陣に強烈アピールした宮崎は、Aチーム(一軍)に昇格し、1年秋のリーグ戦では代打起用ながら通算3打数1安打で打率3割に乗せて大器の片鱗を見せた。
2年春から徐々にリーグ戦での起用機会が広がり、通年で12試合に出場して22打数6安打と好調をキープ。宮崎のバッティングへの高評価は定着し、3年春からいよいよ外野手のレギュラーポジションを獲得する。
そんな宮崎にとっても3年になった2021年春、長すぎた連敗を64で止めた法政戦での勝利には格別の思いがある。