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「甲子園でエース、猛勉強で東大合格」のスゴい人生…100年間で24人だけの天才は今、どんな仕事をしている?「正直、挫折しまくりですよ」
posted2022/11/27 17:02
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph by
KYODO
内部進学やスポーツ推薦制度がない東大野球部。チーム力強化の鍵は甲子園経験者の入部だ。本人の能力はもちろんのこと、強豪校の雰囲気や勝負強さを知っている選手が入ることで、チーム全体の底上げになるからである。
しかし、高校時代に甲子園出場(試合出場もしくはベンチ入り)を果たし、なおかつ東大野球部に入部した者は創部100年余りで24人しかいない。本稿では、そんな“偉業”を達成した2人の東大野球部OBが、どのような進路を選んだのかを紹介していきたい。
「あえて東大野球部OBのいない企業を選んだ」
センバツ大会に出場したのち、東大野球部入りを果たした楠井一騰(松江北・2008年卒部)は、神宮球場のマウンドに登り、大学通算1勝を挙げた。甲子園と東大を両方達成した彼は、どのような進路を辿ったのだろうか。
卒部後、1年の留年を経験した楠井は大学卒業後の目標を考え始める。東大野球部という目標設定に大きな影響を与えたのは父だったが、卒業後の道筋を示したのは母であったという。
「母は私が大学4年生の夏に体調を崩し、卒業の直前で亡くなってしまうのですが、その間に多くのことを話しました。母はECCジュニアのホームティーチャーでしたが、海外に行ったことがなかったんです。晩年には、乳がん患者の“あけぼの会”の活動でシンガポールやスイスに行きましたが、それ以外では父と国内旅行もほとんどしたことがなかった。そのような自分の人生も踏まえてか、『広い世界を見て、そこで活躍できる人間になりなさい』と私に言い続けていました。それは母の遺言のようなもので、これが私の次なる目標になったんです。結局私の人生は親に導いてもらってばかりになってしまっていますね」