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「何で僕なんですか?」からスタートした織田裕二54歳の世界陸上…「ハイテンションぶりに違和感」「中継の邪魔」批判をはね返すまで
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2022/07/27 11:04
1997年大会から世界陸上のメインキャスターを務めてきた織田裕二(54歳)。25年、13大会連続で中井美穂とコンビを組み、今大会が“最後の世陸”となる
長嶋は1980年にプロ野球・巨人の監督を退任後10年あまりは“文化人”として活動し、その間、1984年のロサンゼルス五輪を皮切りに夏季五輪が開催されるたびに取材していた。そのなかで、この時代の陸上界のスーパースターであるカール・ルイスとの交流も生まれる。東京での世界陸上では、ルイスが100メートル決勝でバレルを抑えて当時の世界新記録9秒86で優勝すると、レポーターとして来ていた国立競技場のスタンドから興奮しながら「ヘイ、カール!」と名前を連呼して呼び止め、握手を交わした。
「僕は選手に嫉妬する」
思えば、長嶋茂雄がこのとき示した愛すべき天然ぶり、競技に対する熱の入れよう、アスリートへの敬意は、その後のスポーツイベントのキャスターたちにも引き継がれているのではないか。2004年のアテネ五輪以来、テレビ朝日でオリンピックのメインキャスターを務める松岡修造は、まさにこの意味で長嶋の正統な後継者だろう。そして織田裕二もまた、この系譜に位置づけることができる。
《でも、司会やってて、すごいジレンマでしたよ。僕は選手になれない。あれは選手のための世界陸上。そこで嫉妬をするわけです。マイケル・ジョンソンと勝負したいなと思うけれど、それはできないし……》とは、1999年のセビリア大会で2度目のキャスターを務めたあとの織田の発言だが(『週刊朝日』1999年10月15日号)、選手に嫉妬してしまうところに彼の天然っぽさとのめり込みぶりがよく表れている。
ちなみにマイケル・ジョンソンはセビリア大会に「自分がまだ達成していない400メートルの世界記録を出して引退」と公言してのぞみ、見事に実現した。開催地のスペイン・セビリアは夜も気温が40度近くあり、現地を訪れた織田が「こんな場所で記録なんて出るわけない!」と思ったとおり、同大会では男子400メートルの決勝まで世界記録はひとつも出ていなかった。それだけにジョンソンの快挙は、長らくキャスターを務めてきたなかでも一番印象に残っていると、織田は語っている(『Number』2015年9月3日号)。
最初は「何で僕なんですか?」だった
そんな彼だが、もとから陸上競技に関心があったわけではない。著書『脱線者』(朝日新書、2007年)では、学生時代は球技が好きで、《チームプレーのほうがスポーツとしての実感を得ることができた》のに対し、陸上競技については《ひとりでグラウンドを走っていて、何が面白いんだろう、と考えていた。競技として展開が見えづらい、そんな印象もあった》と率直に書いている。それだけに、世界陸上の話をもらったときは「何で僕なんですか?」と訊いたほどだった(『ザテレビジョン』2019年9月27日号)。