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「何で僕なんですか?」からスタートした織田裕二54歳の世界陸上…「ハイテンションぶりに違和感」「中継の邪魔」批判をはね返すまで 

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近藤正高

近藤正高Masataka Kondo

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2022/07/27 11:04

「何で僕なんですか?」からスタートした織田裕二54歳の世界陸上…「ハイテンションぶりに違和感」「中継の邪魔」批判をはね返すまで<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

1997年大会から世界陸上のメインキャスターを務めてきた織田裕二(54歳)。25年、13大会連続で中井美穂とコンビを組み、今大会が“最後の世陸”となる

 織田によれば、じつはTBSから話があったとき、《最初は司会(引用者注:メインキャスター)をやるという話じゃなかったんです。テーマソングを歌って、ゲストとして一言二言しゃべればいいという話》だったらしい(『週刊朝日』1999年10月15日号)。それでも、陸上のことは何も知らないので、勧められて全米選手権と世界グランプリを観に行ったところ、がぜん面白くなってきた。専門家にも「僕みたいに何も知らない人でも面白くなるネタありません?」と訊き、事前にネタをたくさん集めたという。

 織田はそれまで、陸上は単純に身体能力の高い人たちが選ばれて、そのなかで磨かれていくものだと思っていたが、専門家に話を聞くと、才能1割、努力で身につけたテクニックが9割だと知り、その奥深さに引き込まれていった。キャスターになって以来、《伝える側として大事にしているのは、“隣のお兄さんでいよう”という気持ち。陸上に興味のない人たちにも楽しんでもらわないとダメだと思うんです》と話しているのも(『ザテレビジョン』2019年9月27日号)、彼自身がもともと陸上に興味がなく、キャスターとしてはまったくゼロからスタートしたからだろう。

「ハイテンションぶりに違和感がある」の声も…

 ただ、そうした裏での努力は、世間ではほとんど知られることはなかった。むしろ中継中に熱くなりがちな織田に対し「ハイテンションぶりに違和感がある」「感情移入しすぎて中継の邪魔」などといった批判も少なくなかった。2003年のパリ大会後に出た週刊誌の批判記事では、あるスポーツジャーナリストが《私もただ絶叫するだけのような織田のキャスターとしてのレベルの低さは気になりました。とはいえ、視聴率を上げたいがゆえに、競技についてさして詳しくない人気タレントを引っ張り出すことを常套手段としている今のテレビ局の問題の方が大きい》と苦言を呈している(『週刊ポスト』2003年9月12日号)。

 局側にも視聴者を惹きつけるために、注目選手が出てくるかなり前からいまにも登場するかのようなテロップを出すなど、演出が過剰になるきらいがあった。2009年のベルリン大会の前に日本陸連がTBSに対し選手のキャッチコピーの撤廃を要請したことも、織田への逆風につながった。

「世界陸上なんかするな」「認めてもらうまで、やってやるぞ」

 しかし、前後して織田に転機が訪れる。それは、例の「地球に生まれてよかったぁー!」のフレーズが生まれた2007年の大阪大会でのこと。

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