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「何で僕なんですか?」からスタートした織田裕二54歳の世界陸上…「ハイテンションぶりに違和感」「中継の邪魔」批判をはね返すまで 

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近藤正高

近藤正高Masataka Kondo

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2022/07/27 11:04

「何で僕なんですか?」からスタートした織田裕二54歳の世界陸上…「ハイテンションぶりに違和感」「中継の邪魔」批判をはね返すまで<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

1997年大会から世界陸上のメインキャスターを務めてきた織田裕二(54歳)。25年、13大会連続で中井美穂とコンビを組み、今大会が“最後の世陸”となる

 それ以前、彼と中井美穂は事前取材で現地に赴くことはあっても、会期中は東京のスタジオでキャスターを務めていた。そのために「競技は現場で起きているのに、なぜ東京のスタジオで騒ぐのか」と、『踊る大捜査線 THE MOVIE』の有名なセリフに引っかけて揶揄されたこともある。だが、大阪大会以降、2019年のドーハ大会まではすべて現地入りし、スタジアムから臨場感あふれるコメントを伝えるようになったのだ。《競技場の熱気を体感した織田さんの言動は、視聴者にとって「不自然なもの」から「自然なもの」に変わり、受け入れられるようになっていきました》と、コラムニストの木村隆志は指摘する(「東洋経済ONLINE」2019年10月4日配信)。

 織田に対しては「世界陸上なんかするな。役者だけに専念しろ」と直接言ってきたり、テレビを通して言う人もいたらしい。負けず嫌いな彼は、そう言われるたび「認めてもらうまで、やってやるぞ」と思うという(『脱線者』)。それに彼にとって世界陸上と俳優の仕事はけっして無関係ではなかった。あるインタビューでは陸上と俳優業の共通点を訊かれ、次のように答えている。

《僕は役作りをするとき、どんなにすごい人物でも「どこか欠けている部分を作りませんか」と監督やプロデューサーによく提案するんです。欠点を補って余りある魅力を持つキャラクターを、僕自身が見たくなるんですよ。陸上選手もそれと同じで、どんなに強くても興味をそそられない人っているじゃないですか(笑)。逆に、少しクセのある、何かやらかしそうな不安定さを持っている選手に心を動かされる。ボルトにも少年のようなチャーミングさがあるし、「あいつ、いい芝居してるな」って触発されるんですよね。極端な話、僕にとって陸上選手たちは、世陸という番組の“共演者”なのかもしれません》(『ザテレビジョン』2017年8月4日号)

中井美穂は「フォロー上手。僕はしゃべるの苦手で…」

 選手たちを「共演者」と呼んでしまうのがまた織田らしいが、キャスターの体験は俳優の仕事にもどこかで生きているに違いない。世界陸上ではずっとコンビを組んできた中井美穂だけでなく、スタッフもあまり変わっていないという。ひとつのチームとして続けてきた点は、『踊る大捜査線』のようなドラマや映画のシリーズ物と変わりないだろう。

 織田は長年パートナーを務める中井について《フォロー上手ですね。僕はしゃべるのが苦手で、必死で何か伝えようとして空回りして、肝心なことが抜け落ちたりする。そこを中井さんはちゃんと補って説明してくださるので、助かります》と語り、その信頼のほどをうかがわせる(『TVガイド』2019年9月27日号)。彼女は何かと話が脱線しがちな織田を止めてくれる存在でもあり、《たまに“そこで止めるの?”って思ったりすることもありますけど(笑)》と彼に言わせるあたりは(『月刊ザテレビジョン』2017年9月号)、漫才におけるボケとツッコミのようでもある。

織田のマイケル・ジョンソンの話には“続き”があった

 今回のオレゴン大会での織田を見たら、ずいぶん落ち着いた印象を受けた。年齢を重ねて、感情を抑えることも意識するようになったのかもしれない。それでも、男子100メートルでサニブラウン・ハキームが日本勢では初めて(オリンピックを含めると90年ぶり)決勝に進出したときには涙を流した。織田はサニブラウンが10代の頃から取材しており、今大会の事前取材ではケガから乗り越える姿も見てきただけに感慨はひとしおだったはずだ。この一件からは、織田の選手との深いつながりがうかがえるが、それも長年キャスターを務めてきたからこそだろう。

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