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どうして強がって見えるのか……「生意気なサッカー選手・内田篤人」を追い続けて見てきたこと 

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2020/10/04 11:02

どうして強がって見えるのか……「生意気なサッカー選手・内田篤人」を追い続けて見てきたこと<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

8月23日のガンバ大阪戦をもって、14年のプロ生活を終えた。

駐車場でつぶやいた“冷めた一言”に何も返せなかった

 鹿島へ復帰してからも彼を取材した。

「戻ってきた意味ないじゃん」

 これは2018年ACL決勝戦ファーストレグを前にした時期、駐車場で内田がつぶやいた一言だった。

 シーズンが佳境にさしかかり、リーグ戦・ACLをはじめ、すべてのタイトル獲得を目指すなかで、負傷で戦列離脱を余儀なくされた。初のアジアのタイトルを前にした盛り上がりのなかで、内田は小さく言った。その言葉に重ねる質問はできなかった。それくらい、冷めた熱が伝わってきたから。

「クラブW杯には間に合うでしょう」と話を変えることしかできなかった。そして、クラブW杯には間に合ったものの、タイトル獲得には至らなかった。

 2020年元旦。キャプテンとして挑んだ天皇杯決勝対神戸戦。ベンチ入りはしたものの出番がないまま試合に敗れ、すでに退任が決まっていた大岩剛監督をタイトルで送り出せなかった。

「今の若いチームにはタイトルが必要。タイトルが獲れたら変わるから」と何度となく繰り返していた内田の願いも叶わなかった。

 そして、新体制で苦戦のスタートを切った2020年シーズン半ばで内田は引退を決める。

最後の言葉で示した“鹿島の選手、プロとしての生き方”

 内田最後の試合となった8月23日のガンバ戦に引き分けて以降、鹿島は11年ぶりに7連勝をマークした。8連勝とはならなかったものの、勝利を重ねることで、チームが変わっていく。

 ザーゴ新監督自身が、「かつての鹿島とは真逆のサッカーをやっている」と語るほどに、鹿島は新しく生まれ変わろうとしていた。しかし、監督の示すスタイルに忠実になりすぎるのか、ピッチの選手たちからは窮屈そうな印象が伝わってきた。勝利によって自信を得たからだろう、ザーコ・スタイルに縛られることなく、鹿島の伝統である「勝利からの逆算のプレー」を選手自身が選択し、体現できているように見える。もちろん監督の柔軟な姿勢が生んだ空気かもし、ほかにも要因はあるだろう。しかし、ここで改めて思うのは、内田篤人が残したものの大きさだった。

 残念ながらタイトルをもたらせなかった内田は、その言動でチームを刺激したのだ。内田さんのためにではなく、鹿島が鹿島であるために、選手たちが変わったのだと感じた。

 8月23日の試合後の挨拶では次のように述べている。

「鹿島が数多くのタイトルを獲った裏側で先輩方は勝つために選手生命を削ってきた。僕はその姿を今の後輩に見せられない。サッカー選手として終わったと考えるようになった」と。そして、引退会見でも繰り返した。

【次ページ】 感情を出さない内田が思わず、感極まった“ラストゲーム”

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