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どうして強がって見えるのか……「生意気なサッカー選手・内田篤人」を追い続けて見てきたこと
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/10/04 11:02
8月23日のガンバ大阪戦をもって、14年のプロ生活を終えた。
「そうそう。俺、生意気じゃなかったらとっくにサッカーをやめている。意地っぱり。痛いとか、疲れたとか言わないよ」
――ミスをしてもシュンとしている自分を出さないでしょう?
「そう。ミスはミスだけど、表ではへコまない。でも、ヘコんでいるよ、内心は」
――プロになってサッカー嫌いになったりしましたか?
「サッカーをやっていなかったら、だいぶ楽だろうね。でも、やりたくてやっているんだから、贅沢ですよ。3連敗してあんなにブーイングされる。そういうチームにいられるのは幸せですよ」
「右膝」の怪我も“あえて”公表しなかった
そして、シーズンも佳境となった2009年12月のインタビューでは、「熱くなるのは、(試合ではなく)ゲームをやっているときくらいかな。サッカーでは特別力まないようにしている。力を抜くくらいの感じかな。感情を表に出せる人はすごいと思うんだよね。僕はたとえすごく悔しくても表情には出さない。自分の感情が揺れ動いているのを見られたくないから。ダサいというか、恥ずかしいのかな。僕の感情のことは、僕がわかればいいし、身内だけが知っていればいいこと、世間に出なくてもいいことはたくさんあるから」と話していた。内田のスタンスが垣間見られた。淡泊に見えていた彼のなかに泥臭いものを感じた。
実はこのインタビュー中も内田は大きな氷で痛めた膝をアイシングしていた。9月に右膝の半月板を痛めていたのだ。もちろん当時、内田が負傷を抱えていることを知っている外部の人間は少ない。
「プレーが悪かったときに、『怪我だからしょうがない』っていうふうに思われたくない」というのが怪我を公表しない理由だった。3連覇を目前としたチーム内の空気に配慮したのも事実だろう。しかし、それだけでなかった。
「勝っていないときに痛めたんだけど、ここで僕が痛いといって、練習が止まるのがイヤだったから。我慢してプレーを続けた。チームの調子が悪いのに、離脱するのもイヤだった。『逃げているんじゃないか』って。勝つまで我慢しようと思ってやっていたら、勝っているうちに痛みがなくなったんだよね。それでも思い通りのプレーができないこともある。イライラもするけれど、足痛いからしょうがないって思うのは、ダサいからイヤなんだよね。怪我のことが報道されていると、怪我とか関係なく、ただプレーが悪かっただけなのに、『怪我があるから』と、僕がそう思っちゃうかもしれない。でもプレーがよくないのは怪我が原因じゃないかもしれない。怪我を理由に、自分のプレーから逃げたくない」
このときには、夢にも思わなかった。その「右膝」が原因で、サッカーを奪われてしまう日が来ることになるとは。