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男子柔道ブラジル代表監督の日本人。
藤井裕子はコロナ禍にも負けない。

posted2020/08/11 08:00

 
男子柔道ブラジル代表監督の日本人。藤井裕子はコロナ禍にも負けない。<Number Web> photograph by Gabriela Sabau/IJF

試合中、選手に声をかける藤井裕子ブラジル男子柔道監督。リオ五輪では女子代表のコーチを務め金メダルまで獲らせた凄腕指導者である。

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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Gabriela Sabau/IJF

「普通に練習できるということが何と幸せなことか」

 いま、柔道のブラジル男子ナショナルチームの監督である藤井裕子はトレーニングキャンプを張るポルトガルでそう感じている。

 リオデジャネイロ・オリンピックではブラジル女子ナショナルチームの技術コーチを務め、金メダリストを輩出した。その手腕を買われ、2018年からカナリアンカラーで彩られた国の男子チームの司令官に。いまや競技人口は200万人以上と世界最多となった強豪国ブラジルで日本人女性の代表監督就任は史上初の出来事だっただけに、「性別の壁を超えた」と藤井の存在はいやがうえにもクローズアップされた。

米国に次いで世界で2番目に感染者が多いブラジル。

 藤井は地元愛知県で5歳から柔道を始めている。中学、高校時代は全国大会で上位に名を連ねたが、大学を卒業すると同時に現役を退く。その直後、以前からの夢だった語学留学を叶えるためイギリスへ。そこでふとした拍子で現地で柔道を指導することになり、最終的にはイギリスの女子代表チームのアシスタントコーチを務めた。基礎を徹底的に叩き込む指導力は評判を呼び、その後、乞われてブラジルへと渡ったのだ。

 今年に入ってから藤井は東京オリンピックに向けラストスパートをかけようとしていた。その矢先に新型コロナウイルスが襲いかかる。都市の郊外には必ず存在する「ファベーラ(貧民街)」を多数抱えるブラジルでは感染者の増大が深刻で、7月下旬の時点で約242万人を数える。これは米国に次いで世界で2番目という多さ。ファベーラでは断水している地域も多く、手洗いを日常生活の中に取り入れることすら難しい。

 柔道のナショナルチームに属する面々も練習の自粛を余儀なくされた。地域によって差はあったが、3月中旬からオフィシャルな練習はできない状況が続いた。

 藤井は「ブラジル代表はそれぞれが所属するクラブで練習するというのが通常のスタイル」と説明する。

「でも、各地域のクラブは再開できていなかったり、再開したとしても資金源となっている一般会員の活動が優先される。とくにサンパウロはそういう感じで、チームからは『ちょっとやっていられないよね』という感じの声も聞こえてきました」

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