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男子柔道ブラジル代表監督の日本人。
藤井裕子はコロナ禍にも負けない。
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byGabriela Sabau/IJF
posted2020/08/11 08:00
試合中、選手に声をかける藤井裕子ブラジル男子柔道監督。リオ五輪では女子代表のコーチを務め金メダルまで獲らせた凄腕指導者である。
五輪延期のショックをどう受け止めたか?
3月30日、安倍晋三首相は東京オリンピックを1年後の夏に延期することをアナウンスした。
その時のチームの反応を聞くと、藤井は「人それぞれだった」と分析する。
「代表切符を争う階級で頭ひとつリードしているような選手は『出鼻をくじかれた』と感じたと思う。逆に追い上げていた選手にとっては『またチャンスが来る』と思ったのでは。
柔道にはゴールデンスコア(延長戦)があるけど、『ゴールデンスコアで技ありをとったにもかかわらず、直後に取り消された気分』と言う選手もいましたね」
コロナ禍の最中、藤井は選手たちと事あるごとに連絡をとった。試合に向けて練習するという目の前の動機がなくなってしまったことを危惧したからだ。
「試合に向けて準備するという考え方を辞めました。その代わり今までは自分の柔道を振り返って研究する時間がなかったので、そういう方向に持っていくように話をしました」
ブラジルを離れ、ポルトガルで練習合宿を。
そうした中、ブラジルオリンピック委員会は“ミッション・ヨーロッパ”なるプロジェクトをスタートさせた。
組織がまとまっており、帰国後も練習を続けられる環境を用意できる五輪競技に限り、ポルトガルでトレーニングキャンプを張るというものだ。
水泳や体操とともに、過去のオリンピックで実績があり、同国のオリンピック委員会とも近い柔道にも白羽の矢が立った。
しかし、ミッション・ヨーロッパの前には様々な困難が待ち受けていた。
海外からのウイルス感染を懸念したのだろう。7月上旬ポルトガルは突如として「ブラジルからの入国は一切受け入れない」という声明を出したのだ。その報を受けると、藤井はポルトガル行きを諦めかけたという。
「でも、そのあとすぐ『どうしても入国しなければならない理由を持つ学生やビジネスマンに関していえば入国を許可する』という新しい声明が出た。そこでブラジルオリンピック委員会はポルトガルと話し合いを持ち、最終的に受け入れを認めてもらいました」