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箱根を走った東大院生が追求する
「アスリート兼研究者」という生き方。
text by
吉田直人Naoto Yoshida
photograph byGMO Athletes
posted2020/04/19 09:00
GMOインターネットグループ所属の近藤秀一(左)。東大4年時の2019年には学生連合の一員として箱根駅伝を走った。
作りたいのは「乳酸プロフィール」。
近藤の実験では、被験者となるランナーに一定のペースで3分間トレッドミルを走ってもらい、1分間の休憩を挟む。ペースを少しずつ上げながらこれを数回繰り返す。1分間の休憩中に、血中の乳酸濃度を計る。この測定を定期的に行うと、その人の「乳酸カーブ」が見えてくる。
乳酸カーブとは、血中乳酸濃度の変化をグラフで表したもの。縦軸が乳酸値で、横軸がランニングの速度だ。スピードが増すほど、乳酸の値は高くなっていき、運動後、しばらくすると下がっていく。もちろん、ランナーごとにその変化の幅は異なる。
人間のエネルギー源は「糖」と「脂質」に大別される。2つの燃料の境目は運動の強度にある。運動強度が高まるほど、つまり、より「きつい」運動ほど糖の消費が高まっている状態だ。糖をより多く使い始める分岐点は「LT」と呼ばれ、ランナーの走力を計る1つの指標になっている。
糖を消費すると、副産物として乳酸ができる。作られた乳酸はエネルギー源の1つとして消費されていく。血中乳酸濃度は、乳酸の増減のバランスで決まるため、この数値を計れば、個々のランナーごとにエネルギー消費の特徴がわかるというわけだ。近藤は、さまざまなランナーの「乳酸カーブ」を集めて、“乳酸のプロフィール”を作りたいのだという。
2年間取り組むテーマを決めるために。
近藤は、乳酸が作られる過程だけでなく、減っていく過程も知りたいと考えている。そのために、計測終了後に被験者に軽く歩いてもらうなどして、乳酸の消費速度も測定するという。
「運動中は必ず糖を使いますが、同時にできる乳酸を効率よく使うことも大切なエネルギー代謝の機能です。ですから、乳酸の消費プロセスまで調べることで、ランナーごとの“強み”と“弱み”を可視化できるんじゃないかと思います」
近藤は、さまざまなランナーの「乳酸カーブ」を集めて、“乳酸のプロフィール”を作ろうとしている。
これまでに集めたデータは15人分ほどだが、近藤は「あと倍は必要」と話す。修士課程の2年間をかけて取り組むため、テーマを絞るためにはまず量が必要になる。研究データを体系化し、オリジナリティを出していくのはそれからだ。
近藤は言う。
「ゆくゆくは、蓄積したデータを一般化していきたいです。その結果、たとえば、あるランナーが今どれくらいのタイムで走れそうか推定したり、どんな練習をすれば持久力を改善できるかをアドバイスできるようになったりするのが理想ですね」