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箱根を走った東大院生が追求する
「アスリート兼研究者」という生き方。
text by
吉田直人Naoto Yoshida
photograph byGMO Athletes
posted2020/04/19 09:00
GMOインターネットグループ所属の近藤秀一(左)。東大4年時の2019年には学生連合の一員として箱根駅伝を走った。
東大4年で初出場した、箱根駅伝。
近藤秀一と聞くと、“4度目の正直”を思い出す陸上ファンも多いかもしれない。
2019年の第95回箱根駅伝。東大4年だった近藤は、関東学生連合の1区を走った。区間22位と振るわなかったが、2005年の松本翔さん以来、14年ぶりに東大生が箱根路を踏んだ。1、2年時は選抜メンバー入りするも補欠。3年時は12月末にインフルエンザを発症し欠場。“近くて遠い”箱根路出走を最終学年でようやく叶えた。
筆者は2年前、大学3年生だった近藤にインタビューしたことがあった。当時の近藤は、工学部の化学生命工学科に在籍。水中の不純物を取り除く水処理膜などの実験で多忙な日々を送りつつ、競技に臨んでいた。「東大生ランナー」という肩書から、メディアなどで「文武両道」と形容されることが多かったが、彼の感覚は少し違っていたようだ。
当時の近藤は、こんな言葉を残している。
「“文武両道”という言葉がありますが、僕の中では学業と競技の間に壁はなくて、グラデーションのような感覚ですね。物事の真理を追究していく点では、どちらも共通していると思います。好きなものが2つあったら、それをどう結びつけられるかを考えることが大切です」
“文”と“武”が並行しているのではなく、混ざり合っているという感覚。それは、現在の近藤の姿勢に通じるものだろう。
こだわりは「競技に役立つ研究」。
競技者と研究者を兼ねる近藤には、シンプルなこだわりがある。「競技に役立つ研究をする」ということだ。
近藤は、「乳酸プロフィール」の研究を軸としつつ、並行して加速度センサーを用いたランニングフォームの傾向分析も行っている。市販のクリップ型センサーを腰に装着し、ランニング・ウォッチと連動させれば簡単に計測することができる。ランナーのレベルやフォームのタイプに応じた接地時間の左右差や、上下動、ストライドとピッチの特徴を探っているという。
こだわりの背景にはこんな思いがある。
「まず、自分自身が1人のランナーとして1秒でも速くなりたいという思いがあります。そのためにランニングに関する実践知を増やしている感覚ですね。正直、個別的なデータになるほど、論文にするのは難しいです。でも、既存の論文を基にした科学的トレーニングの方法論を吸収しつつ、さらにもう一歩踏み込んでこそ、研究に面白みが出てくるんじゃないかな、と」
運動生理学の分野では、マウスなどの動物を用いて実験をすることも多いが、近藤は人間を対象に実験を行っている。動物であれば、餌や運動量など実験の条件を変えやすく、より細かくデータを出すことができるが、人間になるとそう簡単にはいかない。それでも人間を選ぶのは、陸上ととことん向き合いたいからに他ならない。