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自転車好きは鉄道好き?
世田谷線に沿ってゆったり走る。
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![疋田智](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/9/5/100/img_95dfba2672c90fc0d7f3080630a5cb7684635.jpg)
疋田智Satoshi Hikita
photograph bySatoshi Hikita
posted2010/06/18 06:00
![自転車好きは鉄道好き?世田谷線に沿ってゆったり走る。<Number Web> photograph by Satoshi Hikita](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/0/3/700/img_03f5774554e39c67487859d904e3eb6a97378.jpg)
まもなく本格的な夏が来る。
結局、その場で謎は解けなかった。
後で地元出身の人に聞いてみたところ、この森に接する豪邸がポイントだそうで、要するに古くからの地主、Hさんというお大尽がいらっしゃって、そのお大尽が、仕事なのか、道楽なのかワカランながら、庭いじりをする、その大規模なものがこれで、途中で飽きて投げ出した(?)跡がこれ、ということなんだそうだ。
いや、あくまで噂に過ぎない。
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しかし、世田谷区内の、いかにも住みやすそうな住宅地である。地価も高かろうし、固定資産税もさぞや高かろう。こんな手つかずで放ったらかされているのは、何だかもったいないね。
竹藪を出て、しばらく線路沿いをゆっくりゆらりと走っていくと、太陽が真上から差してきて、線路沿いには「夏の匂い」が漂ってくるよ。
コンクリートと鉄条網、放置されたレール、そうしたものの間にセイタカアワダチソウが何本も立っている。
まもなく本格的な夏が来る。
でも、その前にイヤな梅雨もやってくる。それまでのつかの間の自転車ツーリング黄金期「初夏」なのだ。今は。
木造洋館・シュロ付きという医者屋敷。
若林の駅の向こうには、銭湯の高い煙突が見える。
世田谷区というのは、大田区や足立区と並んで、実は銭湯の多いところで、今でもこうした古い住宅地には銭湯が残っている。
ただし、地価の高さから、廃業、撤退のスピードも(おそらく)ナンバーワンで、ちょっと油断していると、すぐになくなってしまって、いつの間にやら小さなマンションが建っていたりする。
東京の銭湯、現在、およそ900湯。
かつては3000近くあった。寂しいことだが、現実だ。だって、最近行きました? 銭湯。見ましたか? あの懐かしい富士山のペンキ絵を。
さて、その銭湯のすぐ近くに、おや、これまた懐かしいというべきか何というべきか、私が名付けるところの「医師屋敷」がある。
いやまあ、普通に「医院」なんだけど、昔のお医者さんはなぜみな同じような医院を構えたんだろう。
木造の洋館、石造りの門柱。すぐ横には、必ず、シュロなどの南洋系の樹木が植えられている。
そういえば、私の育った宮崎県日南市にもそのままそっくりの医院があった。私が小学生だった時代、その時すでに廃院していて、我々はみな「幽霊屋敷」と呼んでいた。
「医療過誤による死人が数十人も出て、医院は廃業、院長は夜逃げ。その後、幽霊がたくさん出るようになった」などと、ありがちな伝説が後で付け加わったりしていた。勿論、そんな事実はない。
ひょとすると医院も、近所のガキどもからはそんなことを言われているのではないか。