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自転車好きは鉄道好き?
世田谷線に沿ってゆったり走る。
 

text by

疋田智

疋田智Satoshi Hikita

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photograph bySatoshi Hikita

posted2010/06/18 06:00

自転車好きは鉄道好き?世田谷線に沿ってゆったり走る。<Number Web> photograph by Satoshi Hikita

「政治家が尊敬する人」ナンバーワン、吉田松陰。

 さて、しばらく行くと、ちょっとこぎれいな商店街に入って、そこの名前が「松陰神社通り商店街」。なんでも「完全バリアフリー」を実現した商店街で、車椅子や、自転車にも優しいという。

 その奥に松陰神社がある。

 御祭神はもちろん幕末の志士・吉田松陰である。

 もちろん明治以降の神社だから、新しいといえば新しい。でも、大きいと言えば大きい。立派だ。神社の奥には松下村塾のレプリカまである。

 この充実。駅名にまでなっているし、吉田松陰という人が、いかに人々の崇敬を集めているかという証明でもある。

 その一例と言うべきか、政治家に「尊敬する人は?」と聞くと、ものすごい確率で「松陰先生」という言葉が返ってくる。これは私の実感で言うんだけど(私は随分長いことテレビ記者をやっていたのです)「政治家が尊敬する人」の頻出ナンバーワンは、ダントツでこの松陰先生である。

 誠心、清潔、進取の気性、インテリジェンス、弟子への面倒見の良さ、それに加えてドラマティックな人生、というのが、ガツンとアピールするんだね。たぶん。

 松陰神社で、人の流れを見ていると、確かに政治家に限らず、中高年男性が頭を垂れていくことが多い。

松陰先生は30歳の若造だった。

 しかし、考えてみれば、松陰先生、享年ようやく30、今の感覚で言うなら、まだ若造である。その若造の御祭神に年齢、倍もあろうかというオジさんたちが頭を下げていく。

 昔の人は、若い頃から老成していたんだなぁ。

 さて、線路脇の路地(幅1メートル程度)をゆるゆると走っていくと、そのまま「世田谷駅」のホームに入っていく。

 おやおやと慌てて自転車を降り、ホームの上を押していく。そのまま行き止まり。ちょっと左に曲がって「だいたい右手に線路があるかな」と、見当を付けて走っていくと(このあたりは線路沿いに走るのが難しい)、上町駅。

 ここには「代官屋敷」という地味な観光地(?)がある。行けば、世田谷区の教育委員会が随分力を入れていることは分かるんだが、ただ、見世物が地味すぎてね。ただの古い家だ(すいません)。

 むしろ上町は「ボロ市」で有名。

 市の中心となる、通称「ボロ市通り」は、毎年1月と12月の期間中、延べ100万人近くの人々でごった返すそうな。

 いや、しかし、このあたりはもう長閑というか、何というか、昭和40年代の「豊かな昭和」「昭和の上澄み」からまったく時が流れていない、という風情すらある。

 そうなのだ。

 この世田谷線沿いというのは、東急田園都市線、小田急線、京王線、の三つのメイン鉄道路線を縦に結びながら、表通りから微妙に取り残され、変わらず、そのまま、昭和のテイストを濃厚に残しつつ、今に至っているのである。

【次ページ】 里帰りした芋虫電車の「第二の人生」。

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