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「スクープとったことない」「ダメな記者」森合正範はなぜ『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』を書いたのか? 大宅賞作家・鈴木忠平が迫る!

posted2024/10/10 17:00

 
「スクープとったことない」「ダメな記者」森合正範はなぜ『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』を書いたのか? 大宅賞作家・鈴木忠平が迫る!<Number Web> photograph by Wataru Sato

『怪物に出会った日 井上尚弥と戦うということ』の著者・森合正範氏に大宅賞作家・鈴木忠平氏がインタビューした

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Wataru Sato

 5月に『いまだ成らず 羽生善治の譜』を上梓、ノンフィクション3冠制覇を達成した『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』の著者でもある鈴木忠平。昨年10月に世に問うた『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』でミズノスポーツライター賞を受賞、そして幅広い読者の支持でベストセラーになっている森合正範。今、最も注目されるノンフィクション作家2人による豪華な対話シリーズ。
 第1ラウンドでは、先手・鈴木さんが『怪物に出会った日』について森合さんに著者インタビューしました。《全4回の第1回/第2回へ》

◆第1ラウンド
先手:鈴木忠平が『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』森合正範に聞く

鈴木 『怪物に出会った日』で、一番最初に「おっ」と思ったのは、居酒屋で井上尚弥選手について話していて、なぜ強いかを説明できない。それで、編集者から「戦った人に聞いてみてはどうですか」という声かけから、旅が始まっていく。「真っ先に思い浮かんだ人がいた」と書いてあって、それが第一章の佐野(友樹)選手。どこから始めてもよかったと思うんですが、佐野選手にまず想いがいったのは?

森合 やっぱり自分の気持ちとして現役選手にはちょっと聞けない。もしかしたら、また戦うかもしれない、 リベンジを目標にやってるかもしれない。なので、引退して一番期間が空いてる人だったら、少し話してくれるかなと思いまして。一番離れていて、日本にいるのが佐野さんだった。

鈴木 この佐野選手との試合は、井上選手が初めて日本人と戦った試合でしたが、森合さんも現場にいた?

森合 はい。だけど、井上選手の視点でしか見ていないので、佐野選手にどういうドラマがあったのかわからないです。

鈴木 試合が終わると、まず井上選手の方に取材に行くわけですよね。

森合 はい。明らかに井上尚弥が日本人を相手にどういう試合をするかがテーマでしたから。

鈴木 その日、試合直後に佐野選手にお話をうかがっていない?

森合 なかったと思います。(控室が)分かれていたので。

負けた方に感情移入する記者だった

鈴木 僕もスポーツ紙にいたので、その日の原稿があるし、勝った方にフォーカスすると思うんです。でも、敗者への目線みたいものがすごい繊細で、よく見ていらっしゃるなと。だから、例えば佐野戦も、佐野さんのことは取材しないにしても、彼のダウンしてもおかしくないけど倒れない姿は脳裏に残っていた?

森合 スポーツ全般を通して、どっちかと言えば、勝った人よりも、負けた方に感情移入するような記者ではありました。ただ、仕事としては紙面では勝者の方を大きく扱うので、そっちの方に行きますけど、すごく気になってたり、後日ちょっと話を聞いたり。あとは、大会によっては「負けた人のコラムを書きたいんですけど」と会社に言ったことはあります。

鈴木 実現しますか?

森合 オリンピックの時は、無理を言って、負けた人だけを書くということをやらせてもらいました。

鈴木 それって記者を始めた頃から、持っていたものなのか。本にも書かれていますが、後楽園ホールのアルバイトをしていた時から、どうやら森合さんは負けた人に視線を注がれているような。

森合 何か胸が痛くなるんですよね。キューッとなるのが、負けた人を見る時だったり、噛ませ犬が必死に頑張ってる姿だったり。そういうのが、自分は感情移入していくんですよね。

「負けた人を書きたい」が実現

鈴木 この企画は連載されて、本にされたわけですけど、これは記者として何かためてきた欲求みたいなものが……。

【次ページ】 「負けた人を書きたい」が実現

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