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羽生善治は藤井聡太に質問し続けた…『いまだ成らず 羽生善治の譜』で鈴木忠平は何を描いたのか?「負けました、がすごく響いて」記者・森合正範が問う
posted2024/10/10 17:01
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph by
Wataru Sato
第2ラウンドでは、後手・森合さんが『いまだ成らず』について鈴木さんに著者インタビューしました。《全4回の第2回/第3回へ》
◆第2ラウンド
後手・森合正範が「いまだ成らず 羽生善治の譜」鈴木忠平に聞く
森合 将棋は小学校、中学校の時に父とやってたぐらいで、矢倉ぐらいしかわからないですけど、『いまだ成らず』はとても興味深く読ませていただきました。対局が中心というより、人を中心に書かれているので、よく入ってくる書籍になっていました。驚いたのが、忠平さんが、スポーツを離れて、将棋の羽生さんを書くということだったんです。そもそものきっかけは?
鈴木 森合さんと同じように、父親に週末の夕方に無理やり「将棋の相手をしろ」みたいな程度で、どういうセオリーがあるかぐらいしかわからない。でも、ちっちゃい時にNHKの将棋中継で、羽生さんの表情を見たことがあって。父親から"羽生にらみ"を「見てみろ」と言われて、顔を見たときに、幼いながら衝撃を受けて、ずっと心に残っていて。そんな顔をしてる人間を見たことなかった。いろんな表情があると思いますが、あれはどの感情にも当てはまらない表情で、それが潜在的に焼き付いていた。その後、雑誌の「Number」で将棋特集をやったんです。つまり、将棋をスポーツとして扱った。羽生さんが七冠制覇の時に、森合さんと同じように、負けた棋士に羽生さんの強さはどういうものだったか話を聞いて、ノンフィクションを書いたんですよね。その取材がすごく面白くて、羽生さんへの興味と同時に、棋士に対する興味がわいた。僕が今まで取材してきたことって、全部身体的な動きが伴う。スポーツですから。将棋って身体表現は手が動くくらい。だけど、すごく動的な感じがした。それは僕は活字の表現者だから、そう感じたのかもしれないですけど。ボクシングの原稿も同じだと思うんですけど、内面の葛藤とか動きを書くのが我々の仕事じゃないですか。将棋はそれがすごくやりやすいし、豊かだし。こんな面白い仕事ないなという印象があって。『嫌われた監督』という単行本の作業が終わった後に、「週刊文春」の当時の編集長の加藤(晃彦)さんと 次の連載をどうするかの打ち合わせする日があって、加藤さんが何か腹案を持ってくる、と。それで行ったら「羽生さん、棋士を書いてみませんか」と言われてた。僕、その前の日に、資料とか本を整理していて、『羽生善治全局集』という本だけ、整理できなくて。『羽生善治全局集』の表紙に羽生睨みの顔なんですよ。やっぱり、これへの関心を捨てられなかった。その時は、将棋の仕事をする予定はなかったから、処分してもいいはずなんですけど、 処分できなかった。加藤さんに言われて、自分の潜在的関心というのはそこにあるんだと気づいて「やってみます」と。本当に何も知らない世界で、今から考えれば無謀だったかもしれないんですけどちょっとやってみようと。
森合 提案されたときには、もうすぐに「わかりました」と受け入れたんですか? それとも一回持ち帰って何日後かに返事をした?
鈴木 もうその場で。僕もその前の日に、自分はなぜ『羽生善治全局集』を処分しないんだろうって、ちょっと思ってたんですよ。その頭で行って、そう言われたもんですから、タイミングというか、合致したような感じですね。
「負けました」がすごく響いて…
森合 スポーツをやってる私からすると、忠平さんが清原和博さんを書いたり、落合博満監督を書いたりしてきて、新たな挑戦かなと思うんですけど、いかがですか? それとも人を書くという意味では、延長線上にあったものなのか?