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「スクープとったことない」「ダメな記者」森合正範はなぜ『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』を書いたのか? 大宅賞作家・鈴木忠平が迫る! 

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photograph byWataru Sato

posted2024/10/10 17:00

「スクープとったことない」「ダメな記者」森合正範はなぜ『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』を書いたのか? 大宅賞作家・鈴木忠平が迫る!<Number Web> photograph by Wataru Sato

『怪物に出会った日 井上尚弥と戦うということ』の著者・森合正範氏に大宅賞作家・鈴木忠平氏がインタビューした

森合 自分でもあまり意識してなかったんですけど、出したときに、仲のいい他社の記者から「10年前から森合は負けた人を書きたいとずっと言ってたもんね。それが実現したんだね」と言われて、自分も思っていたし、ひとにも言ってたんだなってということを、改めて気付かされました。

鈴木 実は自分もそういう覚えがありまして。それが何なのか。理由の一つとしてリング上の勝負とかグラウンド上の勝負ではないですけど、新聞記者も、日々勝負がありますよね。

森合 はい、あります。

鈴木 そういうことに、結構負けてきたということもあるのかなと思ったんですけど。

森合 明らかにありますね、私は。明らかにあります。

「スクープないっす」本当にダメな記者

鈴木 どういう記者だったんですか?

森合 私は、本当に謙遜とかじゃなくて、スクープないっす。抜いたこと、本当にないです。だから新聞記者としては、本当にダメな記者、いつも負けていた記者。だけど、長い原稿を書くのが好きだったり、ちょっと厄介な面倒くさい人だったかもしれないです。何も抜いてこない、情報も持ってこない。だけど、こいつ長い原稿書きたがってんな、みたいな。

鈴木 いや、すごい共感します。

森合 だから、なんでみんなニュース取れんのかなっていう。記者でも輝いてる人たちいるじゃないですか。

鈴木 いわゆるニュース記者。

森合 同業でもわかるじゃないすか。なんかすごい輝いてる人たち。自分は、本当にいつも隅っこにいるような。記者が何十人もいるような会見とか、これ書かなくても他の人が書くから、俺はいいんじゃないかなと思ってるような記者でしたね。

鈴木 主役を譲ってしまうような。

森合 それよりも他の取材したいな、と。ニュースは取れないけど、何か自分しか書かないテーマだったり、自分しか書けないことを探してるような記者でしたね。

鈴木 今でこそ、ちょっと変わってきましたけど、ほんの数年前まで新聞社もスクープ命というか、スクープを取れる記者がいい記者であると。そういう教育はされました?

森合 「なんで取れないんだ」とか。あとスポーツ新聞の王道が野球だったので、「お前。野球やんなきゃ駄目だぞ」とも言われました。野球を初めて担当したのが、42歳とか43歳になってからだったので。そのとき、忠平さんと入れ替わるように、ドラゴンズを担当していたんです。中日スポーツは、担当が5、6人いるんですよ。自分は年齢はいってるのに、何にも取れない記者でした。本当に厄介だったし、周りも大変だったんじゃないかな。年齢が下の記者から、ニュースを聞いたりしてましたから。

鈴木 できる記者がいて「こんなことがあるんですよ」。

森合 自分が長い原稿を書くときになったら「こういうエピソードありますから」と言われたりとか。

取材相手がちょっと怖い

鈴木 スクープが取れないって、本当に自分も覚えがあるんです。理由をどう自己分析されてました?

【次ページ】 取材相手がちょっと怖い

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