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甲子園の風BACK NUMBER
「あれは“誤報”だった」大社高スピードスター藤原佑“プロ志望届提出”のニュース…本人が記者に明かした「いや、出してないけん」大社旋風のその後
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph byNumberWeb
posted2024/08/29 11:21
1番センター・藤原佑(3年)。準々決勝直後に「プロ志望届を出す意向」と報じられた
「いろんな人に言われました。本当に出したの? って。いや、出してないけん……と。自分の意図としてはこの先、社会人に行きたい。その上でもプロに行くチャンスがあれば、いつかたどり着きたい舞台という意味で答えたんですけど」
監督の石飛が苦笑しながら話す。
「進路を尋ねられたら『監督と相談して決めます』。これが強豪校の決め台詞でしょう。それがわからんから。藤原は『プロを目指す』とは言ったけど、『志望届を出します』とは断言してないと思うんですよ。だって普通に考えて、なんでもないセンター前ヒットを後逸してるやつが『出します』なんて言うわけないでしょう。ただ(プロ志望届などの)仕組みがわからんけんね、正直」
藤原と石飛によれば、プロ志望届は8月現在「提出しない」方針だという。
「エレベーターにも慣れてない」
大社の選手たちはじつに自然体だった。言い換えれば“作り込まれていないチーム”だった。石飛によれば大社の良さは「弟がチームに来ること」にある。姉や兄が大社の野球部となれば、その弟がほぼ100%大社に来る。地元の選手たち中心のチーム、「先輩に『さん』付けてなかったら注意しますよ!」程度の緩やかな上下関係、島根県内の遠方に住む選手のために用意された寮……そんな環境が弟たちの目に好ましく映るのだろう。
甲子園期間中、大社らしいこんなエピソードがあった。同じホテルに神奈川の名門、東海大相模が宿泊していた。
「ホテルへの慣れ、みたいなところで随分と差がありましたよ。エレベーターを使うときも、相模の子は『お疲れ様です。どうぞ!』と僕なんかに譲ってくれるわけです。ところがうちの選手ときたら、そんなこと気にせず乗り込む。お前らちょっと待て、と。まあ、うちの遠征といったらいつも『青少年自然の家』なので、エレベーターに乗ることも多くないから仕方ない面もあるんですけど」
大社が世間から支持を得た理由――それは“隠しきれない素朴さ”にあると筆者は思う。地方の公立校、強豪校と比べて身体も一回り小さい選手たち……今の時代、そんなチームが勝ち上がるなんてことが起きうるのか、と。
「田舎くさくて人間くさくて……それはいいんですよ。いいんですけど、発言が誤解を招いたり、わからんことが失礼にあたったりするから。選手たちに言わんといけんですね。子どもだからまだ……と思うところと、大人のところをわからせなきゃいけんなと思うところとね、バランスが難しいです」
監督「いま僕、町を歩けないんです」
勝ったことで環境が変わったのは選手たちだけではない。監督もそうだった。