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甲子園の風BACK NUMBER
「あれは“誤報”だった」大社高スピードスター藤原佑“プロ志望届提出”のニュース…本人が記者に明かした「いや、出してないけん」大社旋風のその後
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph byNumberWeb
posted2024/08/29 11:21
1番センター・藤原佑(3年)。準々決勝直後に「プロ志望届を出す意向」と報じられた
「いま僕、町を歩けないんです。冗談だと思うでしょう? 先日も買い物に行ったら30人くらいに囲まれて。『写真撮ってください。生きる活力をいただいたので』って。一緒に写真を撮ったりすると、調子に乗ってると思われそうですよね。だけど、断ったら『その方の生きる活力はどうなるや!?』って」
地元民の証言も“大社旋風”を裏付ける。出雲大社近くの神門通り。土産店を営む70代男性は言う。
「お盆が終わってもこの夏はお客さんが減らない。大社がこんなに取り上げられる日がくるなんてね。ほんと夢みたいです。早稲田実戦の(11回裏)あのバント……ラジオで聞いてたんだけど、あとでビデオで見て驚いちゃって。あれは芸術ですよ。最後に馬庭(優太)くんまで打順が回って。それが全部現実なんだもん……わんわん泣いちゃった。甲子園出場だけでもうれしいのに、ベスト8なんて……。この看板の横に『感動をありがとう!』って、付け足そうか迷っています」
「この商店街でパレードしてほしい」
この夏、大社は高校野球界で全国的な知名度を得た。これまで石飛が直電で申し込んでいたという練習試合も、断られることが減るだろう。あの大社と試合がしたい、と。しかし、「一歩間違えれば調子乗っちゃいますよ」石飛は苦笑いを浮かべる。
新チームへの影響は「まったくない」と言うが、どこか自分に言い聞かせているようにも見えた。その証拠にさっそく、新たに生まれた不安を吐露する。
「甲子園で勝ちましたよね。選手たちとサインを相談していたなんて裏事情を知らない1年生とかが、僕の采配を信じ切っちゃうチームになるかもしれなくて。それが怖い……。新チームでミーティングして驚いちゃって。選手みんな、めっちゃ僕の話を聞くんですもん。『えっ、そこまで真剣に聞く?』みたいな。甲子園前はもっと適当に聞いてたやん!」
かたや、先述の男性は無邪気な喜びをあふれさせ、こんなリクエストまでしていた。「石飛監督に会ったら、伝えておいてください。この商店街でパレードしてほしい、って。いつでもいいからさ」。
盛夏の熱狂の余韻と、秋に向かう不安と。これが島根の小さな町で見た、ひと夏の情景であった。
<《馬庭先発回避の真相》編から続く>