- #1
- #2
甲子園の風BACK NUMBER
「お前、125キロの直球でどう戦うんだよ…」じつは大社高・石飛監督も半信半疑だった「先発、馬庭じゃないよ!」甲子園がざわついた決断…監督が語るウラ側
posted2024/08/29 11:20
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph by
Sankei Shimbun
◆◆◆
島根県北東部、日本海側に鎮座する出雲大社から内陸方向へ車で5分ほど。出雲市大社町にある公立高校の入口付近、学校銘板の横で観光客と思しき家族が記念撮影をしていた。
大社高校が神村学園に敗れた準々決勝から3日が経った。8月22日は同校の始業式の日である。ジャージ姿の石飛文太は、グラスにアイスコーヒーを注ぎながら、感慨深げに言う。まるで、はるか昔に起きた奇跡を回想しているかのような口調だった。
「学校に寄付したいという方々が今も頻繁に来てくれているらしいんですよ。“追い寄付”です。なにせ甲子園で19泊20日しましたから、その分を補うためにって。本当にありがたいことです」
今夏の甲子園、初戦でセンバツ甲子園・準優勝の報徳学園を、2回戦でタイブレークの末に長崎の強豪・創成館を、3回戦で再びタイブレークの末に早稲田実を下した。想定していた期間も予算も超えた甲子園滞在――「大社旋風」を当事者が強く体感したのは、実はそんなところだった。
「僕の采配ミスで負けてきました」
延長11回のタイブレークをサヨナラで勝ち抜いた早稲田実戦後、石飛は相手の監督、和泉実に声をかけられた。ひと言、「強い!」と。本や新聞記事で幾度となく目にしていたあの名将から……そんな感慨はあったが、石飛の内心はこうだった。「うちは強く……ない」。その思いは最後まで変わらなかった。
「ひとつだけ明らかなことは、僕らみたいな格下が安牌で戦っていたら勝てるわけないじゃないですか。初戦の報徳との試合で、先頭バッターの藤原がライト前ヒットで二塁までいったでしょう。内心は『いくんかーい! そしてアウトになるんかーい!』って思ってたけど、あの感じです。終始、攻めることはできていた。格下は攻めの姿勢がなければ、まず戦えません」
石飛の言葉に徐々に力がこもりはじめる。