当時30歳、肉体的な全盛期にあったゴロフキンという“ミドル級の頂点”と拳を交えた男は、自らの経験を踏まえてこう語る。

「自分がずっと言い続けていたのは、日本の中量級の選手はアメリカのリングを“夢の世界”みたいに思っているけど、そんなに変わらないということ。力の差もそんなにない。日本人選手も強いですから。自分のキャリアで、そこを示せたことは良かったと思います」

2013年3月、モナコ・モンテカルロ。ゲンナジー・ゴロフキンと対戦前に握手を交わす　©AFP/JIJI PRESS

「一般の人は僕のことを知らない。それが悔しかった」

　ゴロフキン戦を終え、石田は戦いの拠点を日本に戻した。海外で評価され、日本でWBA世界スーパーウェルター級暫定王座を獲得したとき以上の充実感を味わうことができた。だが、帰国してからの“ある経験”が、石田のハートにまたしても火を付けることになる。

「一般の人はほかの日本人世界チャンピオンのことは知っていても、僕のことは誰も知らない。それが悔しかった。『オレはアップセット・オブ・ザ・イヤーを受賞して、ゴロフキンとやって、MGMでも試合してるんだぞ』って言いたかった。だからもっとみんなに知ってほしい。シンプルにそう思いました」

　もっと多くの人に知ってもらうためには、どうすればいいのか――石田は38歳にして新たな、そして過去に前例のないチャレンジを決意した。

＜第3回に続く＞